Budget Amount *help |
¥1,500,000 (Direct Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 1995: ¥1,500,000 (Direct Cost: ¥1,500,000)
|
Research Abstract |
ラテン文学にあらわれたローマ人のカルタゴ観は,ある意味では二律背反的なものであったといえる。すなわち、カルタゴ人を野蛮な未開民族とみなして,その放埒さを蔑む見方がある一方で、カルタゴに文明の発達を認め,(ローマ人の抱いたギリシア人像とも一脈通ずるが)狡猾にして信義を守らぬ民族として,これをローマにとっての強敵と位置付ける見方も有力であった。リ-ウィウス,サッルスティウスなどの歴史家は多かれ少なかれこうしたカルタゴ観を伝えているが,その半面,アリストテレースが賞賛したカルタゴの国制について評価を下していないのは注目に値する。これは歴史家のみにとどまらず,ウェルギリウス,シ-リウス,イタリクスの叙事詩にも同様の傾向が見られるのであって,カルタゴ人の指導者には多少とも英雄的な性格が与えられはするが,カルタゴ国民全体としてはおおむね残忍な心性をもつものとして描かれている。 そもそも現存するラテン文学作品の大半が第3次ポエニ戦争後の時代に属し,ローマ人にとってその脅威が過去のものとなってのちの作であるから,史料としての制約は否めず,両邦対立時代のローマ人のカルタゴ認識の度合いを詳細に検証することには困難がともなう。その意味からも,プラウトゥスの喜劇『ポエヌルス』は,第2次ポエニ戦争の少し後という制作・上演の時期,および,カルタゴ人の登場人物がポエニ(カルタゴ)語の台詞を語るという唯一無二の仕掛けのゆえに貴重な情報を含んでいる。この作品については,研究論文を投稿準備中であるほか,今回の研究の成果を盛り込んだ新訳の刊行を予定している。むろん,研究成果の発表はこれにとどまらず,今後も様々なかたちでなされるであろう。
|