Research Abstract |
全身持久力は、全身的な運動の"できばえ(performance)"をもって評価することができる.一方、生理学的には最大酸素摂取量(VO_2max)が最も適切な評価指標とされている。しかしVO_2max測定は、特に高齢者の場合,安全面に問題がある他、特定の設備と技術を必要とし、多人数を同時に測定することも困難である。若齢者では、持久走テストがフィールドテストとしてよく用いられているが、これも長年「走る」ことに馴染みの少ない一般の高齢者にとっては無理な課題である。高齢者の全身持久力評価に関しては,未だ模索段階で,内外ともに一定の見解がないのが現状である。 そこで,我々は,安全かつ簡便にフィールドでも測定可能な高齢者の全身持久力評価方法の開発を目的として,共同研究者である金子が提案するシャトルスタミナテスト(SST:10m折り返し3分間走)の「走り」を「歩き」にしたシャトル・ウオ-クテスト(SSTw:10m折り返し3分間歩行)を高齢者に試みている.平成7年度は,40歳から92歳の男性118名,女性297名を対象とし,心拍数や主観的運動強度からみたSSTwの身体的負担度,およびこのテストによる高齢者の体力(全身持久力)の特徴について検討した. SSTwの成績(歩行距離)は,1)年齢と高い相関(男性r=-0.775,女性r=-0.733)を示し,明らかな加齢変化が認められる.2)従来からのバッテリ-テスト(握力,垂直跳び,長座位体前屈,ステッピング,閉眼,開眼片足立ち,息こらえ)すべての成績と有意な相関が認められる.3)40歳代からの毎年の低下率を求めると,VO_2maxの低下率(約1.1%)にほぼ一致する.また,このような加齢変化は,4)垂直跳びの加齢変化とも一致する.5)SSTwでの心拍数は,男女各年齢階級とも予測最大心拍数の約85%である.6)主観的運動強度は,中年層ではまあまあ普通が40%前後見られるが,後年層では少しきついと回答する者が最も高率で,きついとの回答は年齢とともに増加する. 以上から,SSTwは,高齢者の持久力を簡便に評価する一つの尺度になる可能性が示唆された.特に「歩行」は,高齢者の身体的自立を支え,高齢者にも無理なくできる運動であるため,これを直接評価尺度にするメリットは大きいと考える.
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