Research Abstract |
本研究は,新しく開発した下顎総義歯動揺測定システムを用いることによって,タッピング時および食品咀嚼時における下顎義歯の動揺に関する定量的な分析を行うとともに,各種下顎運動の各相に対応した義歯の動揺パターンについて分析を行い,下顎総義歯の動揺に関する基礎的情報を得ることを目的とした. 上下顎総義歯装着者5名(64〜79才)を対象として,タッピング(2回/秒)時および食品咀嚼(φ1.5×1cmのソ-セージおよび0.5×0.5×0.5cmのニンジン,夫々5回ずつ)時の下顎義歯の動揺量を算出した.下顎義歯の動揺量の算出は,上顎に対する下顎義歯と下顎の運動成分(夫々サホンビジトレーナー^R,東京歯材社およびMKG^R,マイオトロニクス社を用いて測定)とを同期させて測定・収録後,自作の測定データ処理プログラムを用いて前者から後者を分離・除去することによって行った. タッピング時および食品咀嚼時における下顎義歯の動揺量(早期10ストロークの平均値)は,タッピング時においては,垂直成分1.39mm,側方成分0.35mm,ソ-セージ咀嚼時においては,垂直成分1.59mm,側方成分0.73mmの値を示し,ニンジン咀嚼時においては,垂直成分1.73mm,側方成分0.78mmの値を示した.各種下顎運動時における義歯の動揺量は,垂直成分については下顎運動の種類間での差が少なかったのに対し,側方成分については食品咀嚼時の方がタッピング時に比べて大きいことが示された.また,下顎運動の開口相では下顎義歯は徐々に浮上し,閉口相に転じた後に沈下するという義歯の動揺パターンが得られた. 以上の測定結果は,本研究に用いた下顎総義歯動揺測定システムが,総義歯の安定性の客観的評価に有用であることを示すものである.
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