Research Abstract |
【目的】矯正的歯牙移動時の疼痛により、プロトオンコジンのひとつであるFos陽性細胞が脳に発現することが明らかとなり、これが、中枢神経における可塑性、持続性疼痛と関連が深い現象として注目されているが、c-fos発現に際するメカニズムはまだ解明されていない。そこで、メカニズム解明の第一歩として、中枢神経細胞の持つリセプターのagonist、antagonistをそれぞれ前投与したratについて、矯正刺激に伴うFos陽性細胞の三叉神経脊髄路核尾側亜核(S.P5C)、中間亜核(SP5I)における分布を比較することにより、c-fos発現における各リセプターの関与を検討した。 【方法】1) Urethane, α-chloralose麻酔下で、Wistar ratを4群に分け、L4-5の硬膜下にI群: 0.9%saline,II群: NMDA, MK-801 III群: AMPA, CNQX IV群: phorbol ester, AP-3をそれぞれ注入し、15分後に上顎中切歯を200gで離開する矯正刺激を加えた。各群とも刺激2時間後に4%paraformaldehyde溶液で灌流固定し脳幹部の凍結切片作成後、抗c-fos抗体を用いたABCによりSP5およびSP5IにおけるFOS陽性細胞を免疫組織学的に検索した。 【結果および考察】I群では、SP5C吻尾側の広範囲にわたって外側表層に陽性細胞が認められたが、SP5Iには見られなかった。II群では、MK-801注入によりSP5Cの陽性細胞数は著しく減少し、c-fos発現の抑制が見られた。また、NMDA注入により、SP5Cの広範囲における陽性細胞数の増加と、SP5I尾側に陽性細胞の分布拡大が認められた。III、IV群では、AMPAおよびmetabortropic receptorのantagonist投与によるc-fos発現の細胞数、分布には著しい減少が認められず、またantagonist注入による発現の増加も見られなかった。以上の結果から、矯正刺激に伴う疼痛によるSP5Cにおけるc-fos発現は、主としてNMDA receptorを介するCa^<2+>細胞内流入により惹起されるものと考えられる。
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