Research Abstract |
本研究の課題は,畿内農村に次ぐ先進地帯であった瀬戸内農村,とくに近世の芸備農村(安芸国と備後国・現在の広島県域に相当)の実態に即して,近世地主制の生成過程を明らかにすることである.この課題を追究するため,芸備農村の近世地主制の進展において,比較的早期に高度な段階に達していた地域を対象として資料収集調査を行った.その結果,かっての広島藩領・賀茂郡森近村(現在の東広島市)において,土居・荒谷家文書を発見・収集した.同家文書はごく一部に限って公刊されたが(広島県史・中世・資料編),近世文書の大部分は未整理なままであった.保存の措置をこうじる意味からも,同家文書を整理・分類しながら,本研究の課題分析を進めることにした. 興味深いことに,近世の森近村において,検地帳の記載と田畑の現状との乖離には著しいものがあり,縄延び地が広範に存在していた.瀬戸内農村は畿内農村と並んで,西日本における農民的小商品生産の先進地帯とされている.先進地帯の地主制形成と,藩政村の抱え持つ縄延び地の関連は如何なるものであろうか.荒谷家文書によって,藩政村における縄延び地など余剰面積の存在と,農民余剰の発生,農民層分解,地主制形成などとの関連について,先進地帯におけるメカニズムの特質を検証中である.
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