ヒトの多関節動作システムにおける中枢神経系の即時適応的感覚運動制御メカニズム
Project/Area Number |
07J08779
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
Physical education
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平島 雅也 The University of Tokyo, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2007 – 2008
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2008)
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Budget Amount *help |
¥2,200,000 (Direct Cost: ¥2,200,000)
Fiscal Year 2008: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2007: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
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Keywords | ニューラルネットワーク / 一次運動野 / 運動制御 / 記憶 / 忘却 / 筋活動 / 最適化 / 中枢神経系 / 感覚運動制御 / 適応 / 筋骨格系 / バイオメカニクス |
Research Abstract |
ヒトの筋骨格系は非常に冗長である。例えば、1つの関節に多数の筋が作用しているため、ある大きさの関節トルクを出すための筋活動パターンは無数に存在する。従って、ある筋が怪我なので使えなくなった場合でも、他の残存している筋で運動機能を保つことができるというメリットがある。一方で、無数の筋活動パターンの中から、ある1つのパターンを選びださなければならず、制御が難しくなってしまうというデメリットもある。果たして神経系は、どのようにして1つの筋活動パターンを選択するのであろうか?本年度は、この長年にわたる疑問を解決する可能性のある有力な仮説を導くことに成功した。 従来、我々ヒトが行う運動や筋活動パターンは、脳内で何らかの最適化計算が行われた結果生じるものだと考えられてきた。最適化の規範としては、筋やニューロン活動の二乗和を最小化するという規範が用いられ、無数のパターンの中から最適なパターンが1つだけ選び出されると考えられてきた。しかし、脳のどのような特徴がこの最適化計算を実現しているのか、また、どのような過程を経て最適化が進行していくのかは全くわかっていなかった。 本研究では、数学的には非常に複雑な最適化計算が、実は非常にシンプルな神経メカニズムによって実現可能であることを示した。そのシンプルな神経メカニズムとは、「運動記憶の忘却」である。テニスなど、練習を怠ると、たちまちのうちに下手になってしまう。運動に限らず記憶というものは、ニューロン同士の結びつきの強さとして脳内に保存されていると考えられている。その結びつきの強さが、時間ととも徐々に小さくなってしまうという現象が、「運動記憶の忘却」である。 私は、ニューロン1000個と筋26個からなるニューラルネットワークを用いて、忘却の効果を検討した。このニューラルネットワークに、肩、肘関節でトルクを発揮させる運動課題を学習させたところ、忘却が存在する場合でのみ、ニューロン活動の二乗和が最小値に収束することを発見した。また、数学的考察をおこなうことで、忘却速度が学習速度よりも十分に小さい場合には、必ず最適解に収束することを証明した。つまり、極わずかであるが忘却するというニューロンの特徴が、最適化の機能を担っている可能性が示唆されたのである。 この忘却理論は、机上の空論ではない。この理論によって導き出された筋活動パターンは、実験(Nozaki et al.2005)で観察されたものを非常によく再現する。また、ニューロン活動について見てみても、実験で観察されたサルの一次運動野ニューロン集団の活動(Scott et al.2001;Kakei et al.1999;Naselaris et al.2006)をよく再現している。これらのことから、忘却理論は単なる数学的理論ではなく、生理学的妥当性も兼ね備えた理論であることがわかる。本研究結果は、「研究実施計画」に記載の通り、北米神経科学会において発表した。
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Report
(2 results)
Research Products
(7 results)