Research Abstract |
本年度は,白金結晶-液体アルカン(飽和炭化水素)の固液界面及びその近傍における,運動量や熱エネルギーの伝搬特性の解析を中心に研究を実施した。 ナノスケールの熱エネルギー伝搬現象の解析においては,熱流体中のマクロな熱流束が各分子に作用する分子間力による分子の力学的エネルギーの変化の集積であるとする「分子間エネルギー伝搬」の概念が,極めて有効である。しかしながら,従来の分子間エネルギー伝搬の概念は,分子間ポテンシャルが2分子の位置関係のみで与えられる対ポテンシャルを前提に構築されており,アルカンの分子ポテンシャルに一般的に含まれる3体及び4体ポテンシャルには適用できない。そこでまず,従来の分子間エネルギー伝搬の概念を拡張し,多体ポテンシャルが支配する一般の系への適用を想定したサイト間エネルギー伝搬の概念を提案した。本概念の定式化により,アルカン分子中の特定の分子内サイト間の分子内エネルギー伝搬がマクロな熱流束になす寄与を明らかにすることができるようになった。 2つ目の大きな成果は,分子動力学シミュレーションにより白金表面近傍のアルカン液体中及び白金-アルカン固液界面における運動量・熱エネルギー伝搬特性を詳細に解析したことである。熱エネルギー流束は,上述したサイト間エネルギー伝搬の概念を用いて評価した。その結果,(1)固液界面における運動量・エネルギー伝搬特性は固体壁の表面構造と分子量に強く依存する,(2)界面における運動量・エネルギー伝搬特性は,固体壁表面の分子がつくるポテンシャル面の起伏の大小の影響を受けるが,その程度は分子量の増大に伴って減少する,(3)固体壁種に関わらず,界面における運動量・エネルギー伝搬特性は分子量が大きくなるにつれ,低下してゆく,(4)アルカン薄膜内の運動量流束について,曲がりとねじれの分子変形は負の寄与をなす,などの新たな知見が得られた。
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