Research Abstract |
パーキンソン病(PD)は、中年以降に発症する神経変性疾患である。PD全体の90-95%は、明らかな遺伝を示さない孤発性PD(sPD)である。精力的な研究が行われているが、sPDの発症機構の詳細は解明されていない。sPDを病理学的・生化学的に特徴づけるレビー小体(LB)の主要構成成分α-シヌクレイン(αS)は、種々の翻訳後修飾を受ける。LBでは、大部分のαSの129番目のセリン残基がリン酸化されていることが明らかになっている。αSセリン129のリン酸化は、αSの重合化及び細胞毒性の発揮に重要な働きを担っていることが、in vitroとin vivoの解析より示されている。このリン酸化反応を司る候補キナーゼとして、カゼインキナーゼIとII、Gタンパク質共役型受容体キナーゼ(GRK)ファミリーのGRK2とGRK5が知られている。しかし、GRKファミリー分子がとの程度αSセリン129のリン酸化に寄与しているのか不明である。本研究は、種々の細胞で発現が確認されているGRKファミリー(GRK2,3,5,6)に焦点を当て、内因性レベルでこれらキナーゼのαSセリン129リン酸化反応に対する寄与を検討した。方法として、野生型αSを安定的に発現したヒト胎児腎細胞由来のHEK293細胞及びヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞において、RNA干渉法を用いてGRKファミリー分子の発現を抑制し、αSセリン129のリン酸化反応の変化の有無を検索した。HEK293細胞において、各GRK分子に対する合成siRNAのトランスフェクションにより、コントロールsiRNAをトランスフェクションした場合に比べ、90%以上の標的分子の発現抑制を認めた。この発現抑制下で、各GRK分子の効果を比べると、αSセリン129のリン酸化反応は、GRK3及びGRK6の発現抑制によって有意な減少を示していた。SH-SY5Y細胞では、siRNAのトランスフェクションによって、各GRK分子は50%以上発現抑制された。この条件において、αSセリン129リン酸化反応は、GRK3、GRK5、さらにGRK6の発現抑制によって有意に減少していた。この結果から、培養細胞間でαSセリン129のリン酸化反応に寄与するGRK分子に違いがあること、神経系培養細胞では、GRK3、GRK5、GRK6が内因性レベルでαSセリン129のリン酸化反応に寄与していることが示唆された。今後、各キナーゼの寄与を明確にすることはsPDの治療標的として神経細胞死を抑制するαSのリン酸化阻害剤の開発に重要な知見を与えると考えられる。本研究成果は、神経科学の国際学会である「Society for Neuroscince2007」で発表した。
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