Research Abstract |
今回は患者の剖検脳を検体に用いたため、通常の免疫組織化学法で用いる潅流固定が不可能であり、組織に対する適切な前処置を検討する必要が生じた。まず、正常剖検脳より黒質を含む中脳腹側の一部を切り出し、液体窒素により迅速凍結の後、クリオスタットにて厚さ40μmの薄切片を作成した。切片を未固定のまま、リン酸化ニューロフィラメントに対する5種類のモノクローナル抗体(06-17, 07-5, 04-7, 06-68, 03-44)と非リン酸化ニューロフィラメントに対する4種類のモノクローナル抗体(02-135, 06-32, 06-53, 10-1)およびこの両方を認識する抗体(02-40)を希釈倍率1000倍で用いた免疫染色をABC法で施行した。染色後の切片を光顕にて観察したところ、過度のバックグラウンドと濃染した血管内腔により、神経細胞の成分は全く同定不能であった。そこで、同系列の切片を室温にて15分間自然乾燥させた後、Bouin液(0.9%ピクリン酸、0.48%氷酢酸を含む8%ホルマリン水溶液)にて30分間浸漬固定し、次いで0.9%塩化ナトリウムをふくむトリス緩衝液にて15分間洗浄した。以降、同条件で免疫染色を行ったところ、06-17, 07-5, 04-7, 06-68, 03-44では黒質網様部を中心に神経細胞の軸索と考えられる多数の小径線維が確認された。02-135, 06-32, 06-53, 10-1では、樹状突起と考えられる比較的大径の線維と網様部の大型細胞の核周囲細胞体に免疫活性を認めた。また、02-40では上記全ての成分が同定された。正常な神経細胞では、軸索に入った部位で初めてニューロフィラメントの構成蛋白が翻訳後修飾を受けるため、非リン酸ニューロフィラメントは核周囲細胞体と樹状突起に、リン酸化ニューロフィラメントは起始円錐より遠位部の軸索に局在している。この事実と照合して、今回検討した組織の処理法と抗体を用いることにより、剖検脳でのLewy小体の免疫組織化学的同定が可能となった。
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