Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
扁桃体における記憶メカニズムを理解するため、扁桃体で放出される神経修飾物質であるアセチルコリンの作用を検討した。まず、マウスの脳スライスから扁桃体の興奮性ニューロンをホールセルパッチし、GABAB受容体の阻害剤であるピクロトキシン存在下で通常状態におけるAMPA受容体を介した電流を記録した。アセチルコリン受容体のアゴニストを投与した結果、AMPA受容体を介した電流が有意に減弱した。また、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストを用いることにより、アセチルコリン受容体のアゴニストの効果はムスカリン性アセチルコリン受容体を介していることを明らかにした。さらに、非常に短い間隔で2つの連続した電気刺激を与えたときの1回目の応答に対する2回目の応答の大きさ(PPR)を観測したところ、アセチルコリン受容体のアゴニストを投与するとPPRが増大したことから、アセチルコリンはシナプス前終末に作用している可能性が考えられた。そこで、その作用機序を検討するために、シナプス前終末で発現して神経伝達物質の放出に関与している電位依存性カルシウムチャネルの阻害剤を用いた。その結果、アセチルコリンの作用はNタイプの電位依存性チャネルを介していること、またP/Qタイプの電位依存性チャネルを介している可能性を示した。ムスカリン性アセチルコリン受容体はM1-M5の5種類存在する。そのうち、シナプス前細胞に発現していると考えられているM2、M4各シングルノックアウトマウス、そして、M2/M4ダブルノックアウトマウスを作製した。これらのノックアウトマウスを使用して実験したところ、アセチルコリン受容体のアゴニストによるAMPA受容体を介した電流の減弱はM4を介していること、またM2とM4の両方がない場合にはアセチルコリン受容体のアゴニストが効果を示さないことが明らかになった。以上はすべて扁桃体における興奮性ニューロンに対するアセチルコリンの直接の効果を分析した結果であるが、実際の生体内ではアセチルコリンが抑制性ニューロンを介して興奮性ニューロンに間接的に影響を及ぼしていると考えられる。そこで、扁桃体の興奮性ニューロンをホールセルパッチし、グルタミン酸受容体を薬理的に阻害した上で抑制性電流を単離した。アセチルコリン受容体のアゴニストを投与した結果、抑制性電流が有意に減弱した。このことから、アセチルコリンは扁桃体の興奮性ニューロンにおける興奮性電流と抑制性電流の両方を減弱させる効果があることが明らかになった。
All 2010 2009
All Presentation (2 results)