Budget Amount *help |
¥2,800,000 (Direct Cost: ¥2,800,000)
Fiscal Year 2011: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2010: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2009: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Research Abstract |
本研究計画は,物語文章の中に学習事項を埋め込むことによって,学習の意図なしに学習を促すことができるという事実に着目し,このような物語を通しての学習の効果をさらに高めるための最適条件を探ることを目的としていた。三年目に当たる本年度は,物語文中の因果関係と談話焦点の関係性についての検討を行った。物語理解過程に関する研究によれば,物語は目標とその充足を中心とする因果構造を中心に構成されており,読み手はその因果構造に沿って情報を処理し心的表象を構築する。一方,物語内容とは関わりなく,繰り返しや強調表現を用いることによって,文章の特定の部分のみを強調するものとして談話焦点の効果がある。これらの物語構造と談話焦点の効果を学習に生かすには,両者がどのように関わりあっているのかを明確にする必要がある。 談話焦点と物語構造の相互作用の過程を調べるため,動詞の持つ潜在的因果性について検討した。潜在的因果性とは,動詞の意味が文の述べるイベントの原因とみられる対象に偏りを生じさせる性質をいう。これまで,潜在的因果性によるバイアス効果は,動詞の表す行為の原因と思われる対象が談話焦点に入りやすくなることによって生じるという説と,談話焦点とは関わりなく最終的な文解釈の際に様々な情報を統合することによって生じるという説が提唱されてきた。本研究では,これらの過程が動詞の種類によって異なることを明らかにした。具体的には,観察可能な具体的行為を表す行為動詞("もてなす""罰する"など)は談話焦点の変化に影響を受けるのに対して,観察不能な内的状態の変化を表す状態動詞("驚かす""憎む"など)は談話焦点とは関わりなくバイアスを引き起こすことを検証した。 これらの研究成果から,談話焦点と物語構造の間には密接な関係があるが,動詞(ひいては因果関係)の種類によって効果が異なることが明らかになった。観察可能な行動の記述を主とするタイプのテキストでは談話焦点が学習に影響すると考えられるのに対し,直接見ることはできない,状態の変化に主な関心のあるテキストでは談話焦点にかかわらず,動詞がもともと持つ物語構造が重要であると予測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物語による学習の効果をより効果的に得るため,物語構造と談話焦点の相互作用について実験的に検討した。その結果,これらの2つは密接に関係しており,しかも,動詞の種類によって相互作用が生じるか否かが異なるという新たな可能性が見出された。このことは,物語構造と談話焦点の関係性が予想以上に複雑であるという事実を示唆した点で理論的,実践的に意義がある。その反面,この複雑な過程の検証に注力することになり,これらの成果を実際的な学習場面に適応した応用的な研究まで勧められなかったことが今後の課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に,動詞の種類によって因果構造と談話焦点の関係性が異なるという仮説をさらに幅広く検証する必要がある。今回の研究で得られた結果は,動詞をおおまかに行為を表すものと状態を表すものに分けた場合のものであり,実験手法も文完成課題と評定課題に限られてきた。この結果を一般化するには,よりきめ細かな語彙研究と多様な実験状況のもとで同様のパターンが再現されるかを十分に検討すべきであろう。 第二に,実際の学習との関係について実証的な研究を行うことである。潜在的因果性を伴う動詞が学習者に対してある種の方向づけを行うことは,これまでの成果からも十分に予測できる。しかし,特定の概念により注目したり,それらの概念に対する評価が変わるということと,概念を学習して使いこなせるようになることは同じではない。理論的な検証を重ねるとともに,学習効果についても検討を進めることが重要である。
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