Budget Amount *help |
¥2,100,000 (Direct Cost: ¥2,100,000)
Fiscal Year 2011: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 2010: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 2009: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
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Research Abstract |
人間が他者と会話したり文章を読んだりする際には,発話やテキストそのものに直接含まれている「明示情報」だけでなく,直接含まれない「暗示情報」をも理解する必要がある。明示情報から発話者や著者が意図した暗示情報を引き出す過程を「推論」と呼ぶ。こうした推論を小さな認知的努力と短い時間で行うことで,人間の言語理解は成立していると言える。自然言語処理の分野では推論機能を工学的に実現しようとするが,未だ人間の水準にはほど遠い。そこで,人間はどのようにして推論機能を実現しているのかが関心のある問題となる。本研究では,LSA(潜在意味解析;Latent Semantic Analysis; Landauer & Dumais, 1997)という知識獲得理論に基づき人間の推論機能を説明することを目指す。推論過程について明らかなのは,推論過程には人間の「知識」が関わることである。より具体的に言えば,推論過程とは明示情報を入力とした知識による解析過程であると言える。 23年度は,主に1)読書経験の個人差とLSAの関係の検討,2)意味プライミングとLSAの関係の検討,を行った。 1)について,LSAの仮定に基づき,「あるジャンル(例えば,小説や新聞)を良く読む人の単語連想パターンは,LSAがそのジャンルのコーパス(例えば,小説コーパスや新聞コーパス)から構築した類似度パターンに近い」という仮説を検証した。その結果,「小説も新聞も良く読む人の連想パターンは,小説と新聞をミックスしたコーパスにより良く説明される」「小説は良く読むが新聞はあまり読まない人の連想パターンは,小説コーパスにより良く説明される」という結果を得た。この結果は,読書が我々の思考の基礎部分(例えば,連想機能)に影響することを示しており,その価値が認められ,「認知科学」に掲載された(猪原・楠見,2012)。 次に,LSAと意味プライミングの関係について検討した。意味プライミングとは,「犬」に対する処理が,「動物」などの関連する単語が先行呈示されていると促進される現象であり,我々の言語処理の基盤となる現象である。先行研究(Hutchison, Balota, Cortese, & WatsQn,2008)ではこの意味プライミング効果とLSAの間の関連に否定的な結果が報告されていたが,本研究では一部支持的な結果を得ることができた。すなわち,意味プライミング効果が検出された単語ペアの中で,高頻度の単語ペアについてのみ,プライミング量(意味プライミング効果により短縮された反応時間)とLSA類似度の間に有意な相関が得られた。
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