Research Abstract |
本申請研究において,太平洋に生息するニホンウナギ,大西洋に生息するヨーロッパウナギの仔魚輸送に関する研究を行った.近年,両種の加入量は1970年代より経年的な変動を伴いながら,長期的に減少傾向にある.両種の産卵場は外洋にあり,ふ化した仔魚は海流によって生息域である沿岸へと輸送される.仔魚は遊泳力に乏しいため,輸送過程において海洋環境変動の影響により,加入量が変動している可能性がある.そこで本研究の目的は,産卵場から生育場まで,どのぐらいの期間で輸送されるのか(仔魚期間の推定),海洋環境変動が加入量変動に与える影響を明らかにすることとした.海洋大循環モデルOFESを用いて両種の仔魚期間を推定した.その結果,ニホンウナギでは約7ヶ月,ヨーロッパウナギでは約2年と推定された.この推定値はヨーロッパウナギについて,耳石輪紋解析の結果よりも大幅に長いものであった.モデルの水温データを用いて,仔魚の経験水温を推定したところ,ニホンウナギでは20℃以上の水温下を輸送されるのに対して,ヨーロッパウナギは20℃以下の水温帯を輸送されることが分かった.耳石の成長速度は水温低下に伴って遅くなり,10℃以下では停滞することが知られている.ヨーロッパウナギについて,耳石輪紋解析は仔魚の低い経験水温により,輪紋の形成速度が遅くなり,仔魚期間を過小評価している可能性が示唆された.様々な海洋環境パラメータと両種の加入量指数との相関解析により海洋環境変動が加入量変動に与える影響を調べた.ニホンウナギについて,仔魚輸送の正否を決定するNEC-Bifurcation緯度と加入量との間に有意な相関が認められた.NEC-Bifurcation緯度はエルニーニョやラニーニャの指標である南方振動に関連して変動しており,エルニーニョ時に北偏する傾向にあった.エルニーニョ時のBifurcation緯度の北偏は輸送成功率を低下させるため,加入量が減少することが分かった.またNEC-Bifurcation緯度の長期的な変動を調べたところ,1970年代後半に有意な平均値のシフトが検出され,シフト後高緯度で変動していることが分かった.この平均値シフトの時期は加入量が減少し始めた時期とよく一致する.ヨーロッパウナギについて,産卵輸送海域の水温データと加入量との間に有意な相関が認められた.この海域において水温は仔魚の食物である懸濁態有機物と負の相関関係にあることが分かっている.産卵輸送海域の水温偏差が高いために,餌料環境が悪化し,生残率が減少し,加入量が低くなっていることが示唆された.産卵仔魚輸送環境の水温の長期変動を調べると,有意な上昇トレンドが見られた.この現象は地球温暖化に起因するものと考えられ,その影響でヨーロッパウナギ加入量が長期的に減少傾向となっている可能性が示唆された、以上より,モデル,観測データを組み合わせることにより,地球規模の気候・海洋環境変動が両種の資源量を変動させている可能性が強く示唆された.両種の資源回復のためには仔魚輸送環境の悪い年の加入個体を保護するなどの対策が必要となる.
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