中国近世北方系戦記文学の形成と伝播―華北軍事社会との関わりから
Project/Area Number |
09J05852
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
各国文学・文学論
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
松浦 智子 埼玉大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2009 – 2011
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2011)
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Budget Amount *help |
¥2,800,000 (Direct Cost: ¥2,800,000)
Fiscal Year 2011: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2010: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2009: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | 北方系戦記文学 / 楊家将 / 播州楊氏 / 六合楊氏 / 代州楊氏 / 宗族 / 北虜 / 碑文 / 楊家将演義 / 石碑 / 系譜 / 伝播 / 故事形成 / 華北地域 / 「五郎為僧」 / 抗金勢力 / 建文帝出亡 |
Research Abstract |
本研究は、明代江南で多数上梓された北方系戦記文学が、(1)北方の諸相と如何に関わり形成され、(2)如何に南方へ伝播され更なる展開をしたか、を考察するものである。北宋山西の楊家将を題材とする文芸を主な研究対象とした本年度は、まず昨年度迄の知見を踏まえ、嘉靖の巷間で「明の楊家将」と称されていた六合楊氏について検証した。結果、15世紀北虜エセン対策に功のあった六合楊氏が、元代より楊家将の末裔を詐称していた西南中国・播州楊氏の系譜を利用して、楊家将末裔の系譜を捏造していた事を見いだした。加えて、この六合楊氏の楊家将末裔説が、嘉靖頃に出現した山西代州楊氏の二つの碑文に取り込まれているとの新知見も得た。他方、碑文等の調査から、北虜アルタンらが侵入した16世紀嘉靖の北辺地帯で、楊家将が北虜防備に益する信仰対象となっていた事も見いだした報告者は、上述の代州楊氏の宗族拡大作業が嘉靖北虜侵入の危機を受けてのものであった事を指摘した。これを踏まえ、報告者は嘉靖に(1)六合楊氏が「明の楊家将」と称され、(2)楊家将小説が複数上梓された背景に、同じく北虜侵入の影響があったとの説を導き出した。本成果は、国内学会で二度発表をした後、PD期間研究成果の総括としての博士学士請求論文の一部とした。猶、「北方と宗族」という新視座を中軸に据えて執筆した本学位請求論文「楊家将故事形成考-中国近世文芸における宗族と北方社会の諸相」は、2012年2月24日に受理され、現在審査待ちの状態にある。また、上記の検証と並行し、同北方系文芸である薜家将、狄家将の考察も進める報告者は、2012年3月に山西南部に遺る薜仁貴一族、狄青一族に関わる碑文等文物の実見調査を行い、通俗文学形成の手がかりとなる石碑群の録文を採取した。現在これらの新資料をもとに、北方系戦記文学の総合的考察を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北宋~明初という初中期の資料不足から、研究が足踏み状態にあった北方系戦記文学の形成・伝播に関わる研究を、主に、楊家将という中核題材から進展させる事ができたから。従来の文学資料に、碑文、絵画、族譜といった歴史・社会学資料を積極的に併用する事で、複数の新資料の掘り起こしに成功した報告者の論考が、二つの全国誌に掲載されるという一定の評価を得たことは、本研究の進度の順調さと方法論の有用性を示していよう。
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Strategy for Future Research Activity |
北方系戦記文学の中核題材である楊家将の研究が一定の成果を得たので、これまでの研究で培った検証ノウハウをもとに、関連する北方系戦記文学、特に英雄的武将一族が何世代にも亘って活躍する「家将もの」(薜家将、狄家将、呼家将等)の研究を継続してゆく。検証ノウハウのうち、特にフィールドワークによる文物の実見調査は、新資料発掘に大きく寄与したので、今後も北方地域を中心に継続してゆく計画である。しかし、こうしたフィールドワークには多大な費用がかかるため、PD研究期間が終了してしまった現在、経済的問題からある程度の制約を受けることが予想される。これらの問題解決のためにも、来年度以降の科学研究費助成(若手研究B等)の取得を目指してゆく。
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Report
(3 results)
Research Products
(13 results)