Research Abstract |
本年度前半は,長野県下伊那郡における非制度的な金融組織の実態を明らかにするため,史料収集とその分析を行った。地方金融史研究において,群小地方銀行のさらに底辺に位置する非制度金融組織の実証研究はなお不十分な状況にあるが,本研究では長野県下伊那郡座光寺村に存在した無尽講と匿名金融組合の分析を行い,構成員の性格や利子の配分,大恐慌を契機とするその崩壊過程などに関する多くの事実を明らかにした。その成果は,飯田市歴史研究所主催の地域史研究集会にて報告し,さらに論文としてまとめた上で,社会経済史学会『社会経済史学』および日本農業経済学会『日本農業経済学会論文集』に投稿中である。 本年度後半は,前年度までに行った長野県下伊那郡における救農土木事業に関する分析と本年度前半の成果とを併せて博士論文いまとめる作業を行い,所属する農業資源経済学専攻の審査を経た上で博士(農学)の学位を授与された。 さらに,以上の作業と並行して長野県下伊那郡の旧三穂村・旧千代村(以上現飯田市),旧清内路村下区(現阿智村)などにおける追加的な史料調査を行い,博士論文で取り上げた座光寺村・上郷村との比較を行うための基礎作業を行った。これまでに分析が完了した座光寺村・上郷村は,ともに伊那盆地の中央部に位置する河岸段丘上に発達した村であり,南アルプスと中央アルプスの山間部に位置する上記3か村との比較は,特に林野への依存度が高まった恐慌期の研究において重要である。今後の課題とし,収集した史料の分析を踏まえて次年度以降に著書としてまとめる計画である。
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