水俣病をめぐる「いのち」の思想――水俣地域における現地調査をもとに
Project/Area Number |
09J08784
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
Area studies
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丹波 博紀 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2009 – 2010
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2010)
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Budget Amount *help |
¥1,400,000 (Direct Cost: ¥1,400,000)
Fiscal Year 2010: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 2009: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
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Keywords | 水俣病 / 日本思想史 / 経済人類学 / 生命論 / 環境論 / 持続可能な社会 / カール・ポランニー / イバン・イリイチ / 死民の地政学 / 人類学 / 環境哲学 / 人間の経済 |
Research Abstract |
平成22年度は、(1)一年目に得られた調査結果の分析とその考察、フォローアップ調査を中心におこない、また、(2)分析・考察から導き出される「いのち」の思想を、特に近現代思想史に対応させながら考察する作業も並行しておこなうことにした。 このうち(1)については、予想以上の進捗で作業を進めることができた。すなわち本計画を立てた時点では水俣病問題と「いのち」ということをどう切り結ぶか、ないしは切り結びえないのか、という点について明らかに認識不足だった。しかし、一年次に水俣病患者家族が30年以上続けてきた低農薬甘夏生産という取り組みを知り、二年次はこれを中心に研究を深化・再構成させたことができたのだ。 具体的には、この低農薬生産においても、経済合理性が各生産者によって無視されているわけでは決してない。ただし構造的にこれを捉えた場合、そこには水俣病を契機として、経済を再び人間の実体的な生の営み、より根源的には「いのち」そのものであるような自然環境に埋めこみなおそうとする営みがあるようにも思える。その際、この低農薬甘夏は水俣病によって崩壊した共同体や関係性の新たな「基点」となっているのではないか。それはまた、ある種の倫理的方向、つまり研究課題に挙げられる「水俣病をめぐる〈いのち〉の思想」の「現れ」だとも私は考えている。 こうした仮説に立ち、私はこの「現れ」を(2)近現代思想史のなかに位置づけるべく、イバン・イリイチの水俣訪問にかんする論文「イバン・イリイチの水俣」を執筆した。この論文内では、水俣病をめぐる人々の動き・思惟には、「コンヴィヴィアル」という言葉に象徴されるイリイチの思想を超えるそれらがあることを確認した。 平成22年度の研究を通して、今この時最も必要とされる「非人間的環境に対する人間の力の必然的限界と他者に行使される力の望むべき限界」(ラッセル)を弁えた倫理思想へのとば口に立てたと思う。これこそ最大の意義である。
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Report
(2 results)
Research Products
(5 results)