Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究は三部構成からなり、本年度は第三部の執筆を中心に行った。特に、アンドレ・ブルトン独自の神話理論の射程を測るために、1947年にパリで開催されたシュルレアリスム国際展を具体的なモデルケースとして取り上げ、神話発生のオートマティスムの機能構造を分析した。その概要は以下の通りである。展覧会場の一番奥の部屋には、12個の「祭壇」が立てられ、12体のオブジェ作品が設置された。会場で販売されたカタログによれば、「祭壇」のテーマは、詩や小説に登場する、今後「神話」として機能する潜在性を備えているかもしれない特徴的な人物・動物などのイメージである。ブルトンはあらかじめその核となる12個のイメージを手紙でシュルレアリストたちに伝え、最終的に12人の造形作家が各「祭壇」を制作したのだった。ここで行われているのは、大がかりな伝言ゲームである。輪郭の不明瞭な「神話」、が提示されることで、作品内容の伝達経路にノイズが挿入され、横滑りのヴァリアントが生産される。つまり、参照元の作品からブルトンへ、ブルトンから「祭壇」制作担当者へ、「祭壇」から観客へと伝達される際に、三段階にわたってノイズが増幅されるのである。ブルトンが1935年に発表した「ヴァリアントのオートマティスム」では伝言ゲームがオートマティスム発生のモデルとして報告されていた。1947年の国際展の会場でも「ヴァリアントのオートマティスム」の発生が期待されており、「神話」の無数のヴァリアントが会場を満たすことで「万人で作る詩」とでも呼ぶべき、シュルレアリスム的共同体が生まれるのである。ここで注意すべきは、この潜在的伝言ゲームを可能にしているのが、カタログに掲載されているブルトンの文章だという点である。こうして観客は、カタログと祭壇=オブジェの間に開かれる磁場にとらえられ、神話発生のオートマティスムの要素のひとつとなるのである。
All 2010
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Book (1 results)
フランス語フランス文学研究
Volume: 97号 Pages: 177-190