Project/Area Number |
10J09377
|
Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
Linguistics
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 陽子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2010 – 2011
|
Project Status |
Completed (Fiscal Year 2011)
|
Budget Amount *help |
¥1,400,000 (Direct Cost: ¥1,400,000)
Fiscal Year 2011: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 2010: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
|
Keywords | 動詞の習得 / 使用依拠アプローチ / 用法基盤モデル / 自動詞と他動詞 / 構文理論 |
Research Abstract |
形態的に類似する日本語の自動詞・他動詞ペア(有対動詞)の中でも空間概念をもつ「あける」「あく」を対象に養育者と子どもの自然発話データCHILDESのなかからMiyata-Tai(以下TAI)データを利用して分析を行った。空間概念に関わる動詞を扱う理由には、子どもが初期に産出する動詞には空間概念に関わるものが多く、親子談話において頻繁に観察されること、そして子どもが包含関係を表すさまざまな経験を日常的に繰り返しており、子どもたちはそのような出来事のなかから類似性を抽出することによって早くから空間に関わるイメージスキーマを形成しているためと考えられるためである。観察にあたっては、言語入力の役割をみるため子どもだけでなく養育者の発話も分析対象とし、子どもの発話に対してどのように応答しているか、互いの発話形式や頻度における対応関係について観察した。抽出されたデータは、(1)発話される動詞の活用形、(2)発話の中で明示される名詞句の有生性の二つの観点からコーディングを行った。 その結果、データにおける子どもと養育者の発話を観察すると、子どもの初期の動詞の使用は特定の活用形に限定されており、子どもが初期に発話する動詞の活用形は母親が頻繁に発話するものと綺麗に一致することが明らかとなった。例えば、自動詞「あく」の場合には、子どもは「あいてる」の形で発話する頻度が最も高く(41.9%,43の発話中18発話)、母親の使用も同様に「あいてる」が最も頻度が高い(33.3%,36発話中12発話)。他動詞「あける」の場合には、子どもは依頼を表すテ形で最も頻繁に発話しており(54.5%,22発話中12発話)、母親の使用もこの傾向と平行していた(50%,22発話中11発話)。このことは、子どもの初期の動詞習得が養育者の使用と密接に関わっており、養育者が最も頻繁に使用する特定の構文を基盤に習得が進んでいることを示唆している。また、自動詞「あく」についてTAIは何度か誤った発話をしているが、その際に使用している形式は養育者の使用頻度も高く、TAIも初期に産出しているaite-という形式での誤りである。これは、自動詞用法のみの動詞を他動詞として使う方がその反対よりも頻繁に起こるとする他動詞と自動詞の交替に関する研究からの知見とも一致するものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題に関連する先行文献や理論的背景を整理するなかで、日本語を対象とする研究ばかりでなく、さまざまな言語を対象とした自動詞構文・他動詞構文の習得研究や使役構文の習得研究、抽象的統語構文への子供の一般化能力とそれに対する制約について議論した研究など、使用依拠アプローチによる第一言語習得理論の最先端の文献を参照し、本研究で扱う問題の所在をより明確なものにすることができた。さらに、積極的に国内・国外の学会に参加し、研究発表を行うことによって成果を多くの方に紹介し、さまざまな研究者と意見交換の場を設けることができた。国際学会での発表を通じて、本研究が持つ強みと同時に弱い部分を認識することができ、今後の研究の方向性について考える機会を得た。また、多くの興味深い研究発表を見聞きするなかで、新たな知見や研究課題へのインスピレーションが得られ、問題意識を共有する研究者たちとの交流を持つことができた。分析は限られた語彙項目を対象とするものにとどまったが、子どもの初期の動詞の使用が特定の活用形に限定されており、子どもが初期に発話する動詞の活用形は母親が頻繁に発話するものと綺麗に一致すること、したがって、子どもの初期の動詞習得が養育者の使用と密接に関わり、養育者が最も頻繁に使用する特定の構文を基盤に習得が進んでいる、という示唆を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は「しめる/しまる」、「のせる/のる」、「落とす/落ちる」、「入れる/入る」、「出す/出る」など空間概念をもつ他のペアを加え、分析を行う。さらに、CHILDESで利用可能な10のコーパスデータは子どもの年齢に応じて、1;5-3;0の時期と3;0-5;0の時期の2つのカテゴリーに分け、2つの時期を比較することによって、子どもが使用する統語的カテゴリーや規則がどのように成人に近いものへと変わっていくかを分析し、構文の抽象化のメカニズムやプロセスについて考察する。Tomasello(2000)はさまざまな年齢の子どもを対象に新しい動詞を使って他動詞文を発話する能力を調査した結果、生後3年目あるいは4年目以降にこのような抽象的な能力を発揮できるようになることを明らかにしており、項目依拠的な構文から抽象的構文への発達過程を観察するにあたって、このカテゴリー設定は適切なものであると考えられる。また、構文の抽象度を分析する手がかりには、構文のタイプ頻度とトークン頻度に着目する。用法基盤モデルでは、トークンやタイプの頻度を(1)実際のコミュニケーションの文脈のなかで具体的な言語表現の使い方をどのように習得しているか、(2)どのようにしてそのような表現をさまざまなバリエーションで使えるようになるか、という2つの点を明らかにする説明原理と捉える(Tomasello,2003)。したがって、このような観点から、本研究は構文の一般化の問題を捉えるために、それぞれの動詞構文のトークン頻度とタイプ頻度の変化を分析する。
|