Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
牛の卵巣および子宮に生理活性物質を投与するシステム(手術、カニュレーション法など)を検討した。その結果、卵巣動脈および子宮動・静脈を介して2〜3発情周期にわたり持続的または断続的に生理活性物質を投与でき、子宮静脈および卵巣動・静脈からの連続採血も可能なシステムを開発できた。また、この状態で牛を妊娠させ、授精後30〜45日目まで妊娠の維持が可能であることを確認した。上記システムを用い、子宮静脈および卵巣動脈内にプロスタグランジン(PG)F_<2α>とPGE_2を種々の濃度で組み合わせて投与した結果、PGF_<2α>は一過性大量投与よりも、少量反復投与により、より確実に黄体退行を誘起することを確認した。さらに、PGF_<2α>単独の投与に比べ低濃度のPGE_2を同時に投与することにより、確実で急速な黄体退行を誘起できることを明らかにした。上記試験と平行して、臨床の現場において原因が特定できなかった繁殖障害牛を中心に、発情周期内での子宮内膜における上皮成長因子(EGF)およびそのレセプターの発現と、子宮内膜でのEGF機能について検討した。不妊原因の精査後、リピートブリーダー牛と診断された牛では、EGFレセプター発現量の発情周期内変化に異常はみられないが、多くの例(約80%)で子宮内膜EGF濃度(遺伝子およびタンパク量)の周期的な変化が失われていることを明らかにした。発情後14〜17日目の対照牛からバイオプシーにより採取した子宮内膜組織では、EGFがPGF_<2α>/PGE_2産生量比を抑制するのに対し、リピートブリーダー牛から得られた材料ではEGFによるPGF_<2α>/PGE_2産生量比抑制効果の失われていることを明らかにした。以上の結果から、リピートブリーダー牛ではEGFの発現および機能の異常により子宮でのPG産生調節機構に異常がみられ、黄体機能を維持できないため胚の死滅や着床不全により不妊となることが示唆された。