Research Abstract |
本年度は,音楽聴取により生じる鳥肌感(鳥肌が立つ,ぞくぞくするような感覚)と涙感(涙ぐむ,胸が締めつけられるような感覚)について,心理生理実験,質問紙調査,心理音響分析,自然言語処理によって検討を行った。 心理生理実験では,前年度に行った鳥肌感と涙感が単独で生起する場合の検討を基に,鳥肌感と涙感が同時生起する場合の検討を行った。具体的には,音楽聴取中に鳥肌感が生じた場合にはマウスの左クリックを,涙感が生じた場合には右クリックを押させて,それらの感覚が同時生起した前後15sの自律神経系生理反応を検討した。その結果,鳥肌感と涙感の同時生起付近では,心拍数の上昇中に,皮膚電気反応が上昇した後に,呼吸が深く,遅くなるという時系列的な生理反応の変化が認められた。これらは,音楽聴取によって鳥肌感と涙感が単独生起した反応を合成した生理反応であり,両反応は同時生起により生理的に統合されることが示された。 さらに,音楽聴取前の参加者の心理生理状態を検討した結果,安静時の心拍変動が小さく生理覚醒している参加者ほど,鳥肌感が生起しやすいと示されるとともに,心拍変動が大きく生理沈静している参加者ほど,鳥肌感と涙感が同時生起しやすいと示された。質問紙調査では,日常的に音楽聴取で鳥肌感が生じやすい人が行動賦活(BAS)傾向が高く,涙感が生じやすい人が共感特性が高いと示された。鳥肌感と涙感の両方が生じやすい人は共感特性が高く,行動抑制(BIS)傾向が低いとが示された。心理音響分析では,鳥肌感の生起する前後で音量,変動感,音高が上昇するのに対し,涙感の生起する前後では音量と変動感のみが上昇すると示された。鳥肌感と涙感が同時生起する前後では,音量,変動感,音高が上昇した後に,音量と変動感が再び上昇することが示された。自然言語処理では,鳥肌感および涙感の単独生起,鳥肌感と涙感の同時生起のそれぞれに対して,ポジティブ語よりもネガティブ語の影響が強いことが示された.これらから.音楽聴取によって生じる鳥肌感と涙感を生起させる要因の一端が明らかにされた.
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