Research Abstract |
沈み込み帯における流体の挙動,物質移動のメカニズムを調べる為に,沈み込み帯起源の広域変成帯である三波川変成帯について,野外調査,室内分析,データ解析および数値シミュレーションを行った.特に変成作用における流体活動は,地球の物質循環,沈み込み帯における地殻の変形,火山,地震の発生に大きな影響をもつにも関わらず,その流体量については手法によって全く見解が異なる.本研究では従来の研究での不確定性の元となっている源岩組成のバラツキと変成反応による物質移動を区別する為に,鉱物反応に基づいた物質移動を定量的に評価した. 調査地域である四国三波川変成帯の上昇期は,沈み込み帯上盤側の温度圧力条件を経験しており,沈み込み上盤側のアナログ物質である.本年度は,変成岩上昇時の吸水反応を記録している塩基性片岩について,昨年度までの鉱物化学組成,鉱物モード比,全岩微量元素組成,鉱物微量元素組成データに加えて,全岩主要元素組成(XRF),全岩Sr-Nd-Pb同位体組成(TIMS)を測定,またplagioclaseの形状解析,詳細な熱力学解析,および沈み込み帯の温度場数値計算を行った.これらの多次元データの複合解析から,(1)主要元素・微量元素の挙動は,岩石のサンプルスケールを超える鉱物溶解沈澱によって説明できること,(2)岩体スケールでの溶解沈澱とそれに伴う主要元素の移動が起こっていたこと,(3)物質移動と勢断変形がカップリングしていること,(4)これらの現象が起きた当時の沈み込み帯のセッティングは,海嶺沈み込みによる高温度場で説明できること,が示された. この岩体スケールの溶解沈澱による主要元素の移動は,変成作用時の大量の流体フラックスを示し,従来の変成岩岩石学で仮定されてきた全岩組成一定の仮定を覆すだけでなく,プレート境界地殻深部での変形機構が流体流入に起因する大規模スケールの溶解沈澱クリープに支配されていることを示唆する.
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