Research Abstract |
本研究は,学習した内容を説明する学習効果を実験的に検討した。特に,文章理解と理解状態の把握に対する効果を詳細に調べるため,説明を予期して学習する「説明予期」の効果と,実際に説明を産出する「説明産出」の効果に分けて検討を加えた。 説明予期の効果については,中学生に対する研究から,「説明とは,学習内容を構造化・精緻化し分かりやすく伝える過程である」という説明観の得点によって,文章理解に対する説明予期の効果が異なることが分かった。また,この研究をもとに,大学生を対象に実験を行ったところ,説明観による説明予期の調整効果は再現されなかった一方,統計的有意ではないものの,説明予期は文章理解に対して正の影響を示した。またこの結果を含め,先行研究の結果と合わせてメタ分析を実施したところ,説明予期は有意に文章理解を促進することが見出された。中学生と大学生では,説明観や説明スキルに違いがあるために,説明予期の効果も異なったものと推察される。 また,先行研究のレビューから,説明予期を持つだけでは理解状態の把握は促進されず,それを促すためには,実際に説明を産出することが求められると示唆されたことから,理解状態の把握に関して実験を実施した。大学生を対象に,複数の文章の学習,理解度評定,テストへの回答を求め,理解度評定がテスト成績を予測した程度を理解状態の把握の指標とした。統制群の他,説明を予期しながら文章を読む予期群と,学習直後に説明を産出する産出群を設定した。分析の結果,2つの実験どちらでも,説明産出群の理解状態の認識の正確さが向上したことが明らかとなった。なお,説明予期群の正確さは統制群と変わらなかった。 以上より,(1)説明を予期して学習を行うことで文章理解が促進される,(2)しかし,説明予期は学習後の理解状態の把握を促すわけではない,(3)実際に説明を産出することで理解状態を正確に把握できることが明らかとなった。 説明の過程で得られる詳細な効果を明らかにしたことで,教育実践への目的に合わせた応用が可能となると考えられる。
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