背景と目的:バイオインフォマティックス、分子動力学シミュレーション、および黒澤らによって開発された抗体ライブラリーを用いた細胞内遺伝子産物の網羅的機能構造解析法の開発とその応用を目的とする。生体内機能性分子の標的分子認識の分子機構を抗体ライブラリーを使って網羅的に解析することで、生物の有する標的分子認識機構のインデックスを作成し、機能が未知の遺伝子産物の機能を探索できるアルゴリズムを開発する。また、その過程で得られる知見を基盤に、任意の遺伝子産物に適用可能な機能制御分子の設計アルゴリズムを開発する。 検討結果:1.標的分子認識機構のデータベースの作成;これまでにステロイドやペプチド、病因性毒素、ウイルス粒子を抗原として抗体ライブラリーのスクリーニングが行われ、各抗原に対する抗体およびその遺伝子が得られている。一つの抗原に対して多種の抗体が得られるが、これら抗体遺伝子の整理、統合、データベース化を進めている。2.以下の二つの系をモデルケースとして、抗体をプローブとした生体内分子間相互作用の分子機構の解明とその制御法の開発を進めている;a)細胞内シグナル伝達系の主要因子であるカルモジュリンの翻訳後修飾依存的標的タンパク質認識の分子機構を調べ、抗体を用いてこの分子間相互作用を制御する方法の開発を進めている。b)未同定、機能未知の遺伝子産物の同定、機能解析に用いる抗体の調製方法の開発のモデルケースとして、c.elegansのカドヘリンリピートを有する遺伝子産物の推定三次元立体構造の構築を行い、ペプチド抗原の設計を行った。 考察:現在構築中のデータベースを概観すると、通常の動物免疫法で得られる一群の抗体に比べて、はるかに多種および多機能の抗体が得られている事が分かった。現在、さらにデータ数を増やしつつ、全てのデータを網羅的に扱うことで新しい知識の抽出を進めている。
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