Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
宇宙暗黒物質の正体とその性質については、現在の素粒子・宇宙物理学分野における重要な未解決問題の一つである。暗黒物質を構成すると考えられている素粒子の有力な候補の一つであるアキシオンは強い相互作用におけるCP問題に関連してその存在を予言されている。その質量は理論的には任意の値を取りうるが、様々な宇宙・天体物理学的な考察により、10^<-3>-10^<-6>eVの領域に絞られている。宇宙由来アキシオンの存在を検証する最も有力な実験的方法は強磁場中に置かれた共振空胴中でのアキシオン転換光子を検出するものであり、現在日本と米国の2つのグループがこの方法に基づき、質量10^<-4>-10^<-6>eVのアキシオンに対する理論的数密度限界までの感度を持った探索実験を行っている。しかしそれより重い領域、すなわちmeV程度の質量領域に対してはレーザーを用いた実験や太陽由来のアキシオン検出実験が提案され行われているが、十分な感度には至っていない。そこで、本研究では人工原子を用いて、この領域の質量を持った宇宙由来アキシオン探索用検出器の開発を目的としている。meVの質量領域での転換光子は遠赤外光に相当する。このような波長域に対して、人工原子の単電子トランジスター(SET)とよばれる作用を用いて単一光子の検出手段として利用できる。このアイディアに基づき実験の有効性を検証するため、今年度は昨年度に整備をした単一遠赤外光検出器の低温環境テストベンチを利用して冷却テスト実験を行い、温度制御装置等を含めた改良を進めた。現在は実際の試料を利用した実験についての準備を進めているところである。また、アキシオンの理論模型から予測される数密度に対して有効な感度が得られるか、実験データを利用して検討を進めている。