Research Abstract |
種々の典型元素を架橋原子とする前周期-後周期混合金属錯体(ELHB錯体)の系統的合成を目的として,本年度はヒドロスルフィド配位子を1つのみもつヒドリドーヒドロスルフィド錯体を用いた多核構造の構築を検討した.すなわち,モノ(ヒドロスルフィド)錯体と異種金属フラグメントとの反応によって,まず硫黄原子1つで異種金属を近接した部位に固定した錯体を合成したのちに,金属間に酸素,窒素などのヘテロ元素配位子を導入するという段階的な合成経路をデザインし,その実現を目指した. ヒドリドーヒドロスルフィド錯体[Cp^*IrH(SH)(PMe_3)](1;Cp^*=η^5-C_5Me_5)と種々の前周期遷移金属錯体の反応からは期待したヒドリドースルフィド架橋ELHB錯体の単離には至らなかったものの,より幅広い金属について同様の反応を検討したところ,1と当モル量の[(cod)RhCl]_2(cod=1,5-cyclooctadiene)との反応からヒドリドースルフイド架橋3核錯体[Cp^*Ir(PMe_3)(μ_2-H)(μ_3-S){Rh(cod)}{RhCl(cod)}]が得られることを見いだした.本錯体は,溶液中で2つのロジウム原子が等価となるようなフラクショナルな挙動をとるなど柔軟な3核構造をもつことが明らかとなった. また錯体1は[IrCl_2(NO)(PPh_3)_2]と反応して,非対称なスルフィド架橋イリジウム2核ニトロシル錯体[Cp^*Ir(PMe_3)(μ_2-S)Ir(NO)(PPh_3)]を与えた.さらに本錯体をヨウ素あるいはプロトン酸で処理したところ,2核サイトへの酸化的付加反応が進行し,イリジウム間の架橋原子としてヨウ素,水素原子を導入することに成功した. 以上のように,ヒドリドーヒドロスルフィド錯体が,硫黄原子1つで架橋された柔軟な多核構造,あるいはスルフィドーヘテロ元素混合架橋構造を構築するための有用なビルディングブロックであることを示すことができた.
|