Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
鶏卵の貯蔵中に、卵白の食品機能特性が低下する原因の一つに、主成分であるovalbuminが熱安定性の高い分子種、S-ovalbuminに変化することが上げられている。本研究では、タンパク質全般の熱安定化原理の究明に資することをめざし、ovalbuminの熱安定化機構の解明にタンパク質工学的アプローチを行った。serpinタンパク質のループインサーションにおけるヒンジ領域ヘの変異導入(二重変異体)ovalbuminはserine proteinase inhibitor(serpin)と一次構造上の類似性が高く、高次構造も類似していることが知られている。serpinタンパク質は、その阻害活性発現時に、偽基質部位近傍のループが分子中央に位置するβシートAの中央に割り込み、著しい熱安定化を起こす特徴がある。この点に着目し、ループの割り込みに際して、ヒンジとなる領域に変異を導入した変異体(R339T)を利用して、タンパク質工学的検討に着手した。ヒンジ領域で置換されたアミノ酸残基(339番目のアルギニン→スレオニン)と相互作用しうる距離にある残基(トリプトファン184)を、フェニルアラニンに置換した二重変異体を作成し、ループインサーションの可能性を検討した。高感度示差走査熱量計を用いた分析によると二重変異体は、エラスターゼを作用させ、偽基質部位を切断すると、熱安定性の上昇がみられ、ループインサーションを起こすことが示唆された。しかし、酵素処理によって、いくつかの分子種が生じ、熱安定性にも若干のばらつきがあることがわかり、R339Tよりループインサーションの速度が遅いことが示唆された。serpinやR339Tのループインサーションの速度は速く、実質的に測定不能であったため、今回作成した二重変異体を用いると、ループインサーションの速度論的解析に応用できるモノと考えている。