Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
この研究は、公共公益施設を撃備する場面において、関係者の利害状況をどのように認識・把握するか、関係者の利害をどのように調整するか等を検討することにより、施設整備に向けた合意形成についての認識を深めることを目的とした。施設整備によって受益する者がある反面において、不利益を受ける(と感じる)者が生じる。施設整備を進めるためには、整備主体(多くの場合政府である)は何らかの方法により整備を正当化する必要-言い換えれば世間一般の納得を得る必要-がある。では、整備主体はどのような方法により、あるいは、何に訴えかけて正当化を図ることができるだろうか。次のようなものが考えられよう。(1)合法性(既に認められている規範にかなっていること)、(2)手続的保障(関係者-特に反対者-に決定手続への参加を認めたこと)、(3)正当な補償(不利益に対する金銭的な埋め合わせをしていること)、(4)不利益の緩和(何らかの利便施設をセットで整備すること)、(5)資源利用の効率性(施設整備によるメリットが整備費用を上回ること)、(6)誠実な対応。こうした正当化が成功する場合に、不利益を受ける者が表立った反対を続けたとしても「ごねている」印象を与え、支援は得にくくなるだろう。そのような場合も、施設整備に向けた合意が得られたとするのが通常なので、「合意形成」というとき、関係者全てが積極的に賛成しているというのではなく、反対者が声高に反対するには至らない状態-「しょうがない」という状態-を含めておくのが適切であろう。他方、上記のような正当化が成功しにくい非常に困難な事例もある。例えば「美しい自然環境の保全」など、個々人に対する経済的・精神的な対応では埋め合わせができにくい事柄が対立の根源にある場合である。このように、具体の事例を観察することを通じてある程度の知見は得られたが、なお課題は多い。(1)正当化に役立つ事項相互の関係はどうか、他にはないのか、(2)世間一般の納得を得ることができるためにはどの程度のことをなすべきか、(3)今後増加が予想される「困難な事例」にどう対応すべきか、といったことなどである。