Research Abstract |
従来,内湾域において貧酸素水塊は底層に形成されるとされてきたが,中層に形成される場合もある.その違いは,外洋系水の進入深度によって起きる.伊勢湾の場合,外洋系水は伊良湖水道で混合されるので,酸素を豊富に含んでいる.この外洋系水が中層に進入する時は底層に貧酸素水塊ができ,底層に進入する場合は貧酸素水塊が中層に浮き上がる. 進入深度は湾口部と湾内の海水密度の差異によって決まる.そのため,その差異が変化すれば,進入進度も変化する.伊勢湾では,冬季は伊良湖水道の海水の密度が湾内底層の密度よりも大きいので,底層進入となる.一方夏季にはその逆の密度分布となることが多く,外洋系水は中層に進入することが多い.また,伊良湖水道の海水の密度は湾外の海水の影響を受けているため,黒潮の離接岸などによる年毎の変動も大きい.さらに小潮時には伊良湖水道での鉛直混合が若干弱くなるため,下層の密度が湾内底層の密度よりも大きくなり,夏季でも底層進入となる.このような進入進度の変化に伴って,貧酸素水塊も湾奥に押しやられたり中層に浮上したりするなど,短期間のうちに水平・鉛直的な位置が変化する. 伊勢湾の幅は約30kmとロスビーの内部変形半径よりも大きいため,湾内の流れには地球自転の効果が影響を及ぼす.そのため,中層に流入する外洋系水は,愛知県側に押しやられる.その結果三重県側の下層が海水交換から取り残される形になり,低温のドームができ,貧酸素化する. 診断モデルを用いて湾内の密度構造や流れを3次元的に再現するとともに,粒子追跡を行い外洋系水の進入状況を調べた.1986年のように貧酸素化が激しかった年には外洋系水の湾内底層への流入が弱かったため,低温・高密度の海水が湾内下層に広く分布していた.一方比較的酸素濃度が高かった1988年にはエスチュアリー循環によって外洋水が湾内下層に進入し,海水交換が促進される傾向にあった.
|