Research Project
Grant-in-Aid for Exploratory Research
本研究は、コミック同人誌即売会という文化活動をカルチュラル・スタディーズ的視点から実証的に分析しようとするものである。具体的課題は、若者たちの自発的な活動として形成されてきたこの文化的な場の構造・実態を明らかにし、その中から現代の若者文化が持つ可能性と、現代の若者が直面している社会的な課題・問題を明らかにすることである。本年度は、本研究3年目の最終年として、以下の各項目を実施した。(1)文献調査(2)一昨年度実施した郵送調査の分析作業の完成および(3)昨年度実施したカセットテープ郵送調査の分析の完成(4)コミック同人誌即売会(コミック・マーケット62)の観察(5)調査結果の妥当性を検討するための、コミック同人誌関係者ならびにコミック同人誌に詳しい研究者への聞き取り調査(6)報告書の作成本年度得られた知見のうち特徴的なことは、「コミック・マーケット」という場の日常化の進行であった。かつて、「コミック・マーケット」は文化運動、あるいは、祝祭論で言う「祭り」としての性格を持ち、日常生活とは一線を画した特殊な場として参加者たちから捉えられていたが、現在では単なる日常生活の一部分としてしか受け取られなくなっている傾向があった。同人誌出版物の書店での流通がめずらしくなくなるといった状況から見て、同人誌文化は社会において一般化する段階を迎えており、これはもはや同人誌文化が特殊なものではなくなり、文化運動としては意味を持たなくなって来ていることを示唆しているようである。大量の一般市民が大衆文化の生産者となり得るという事態は、これまでの大衆文化論の予想してこなかった事態であり、大衆文化論の新たなパースペクティプの構築が要求されていると考えられる。