Research Abstract |
1.IRパルス励起・観測系の整備 (1)バクテリオロドプシンのフォトサイクル反応を開始するための,励起用YAGレーザ2倍波生成系を新しく設置した.ほんらい現有装置を使用する予定であったが,試行の結果,十分な時間分解能が得られないことが判ったので,この補助金を一部用いて新しく整備を行った.本補助金の交付時期が遅れたために平成12年度2月下旬の設置となった.またIRレーザーに関しては,何度かの故障を経て装置の本格的な改修を行い,現在ひきつづき観測を進めている.この系を用いて,バクテリオロドプシン試料中の水分子を励起後,熱反応を観測した初期的なデータを得た. 2.可視吸収分光によるレチナール蛋白質のネットフロー的反応 IRレーザパルス励起・観測系の整備と並行して,以下の関連する研究を行った. (1)バクテリオロドプシンと同様の光化学反応および立体構造を持つグループの蛋白質レチノクロムを用いた可視吸収による液体窒素温度領域における速度論的実験を行った.その結果から,反応速度がデルタ関数的ではなく,ガウス関数状に分布していることを見いだした.fittingしたガウス関数の形状(中心値、半値幅)は,それぞれの中間体に固有の値をとった.実験およびデータ解析の環境整備に,本補助金を使用した. (2)また,脊椎動物ロドプシンのルミ,メタI,メタII中間体の熱遷移に関しても,分布した速度定数の観測に成功した.この現象はレチナール蛋白に一般的に見られることが示唆された. (3)この現象は、従来ひとつの中間体と呼ばれたステートが,数多くの少しずつ構造・反応係数の異なる微細なステートの分布したものであるという示唆を与える.また、これらの分布した状態は,可視吸収スペクトルでは区別が付かないことから,発色団レチナールの構造ではなく,その周囲の蛋白質の構造が異なっているものと予想される.すなわち,これらの微細なステートをIRレーザーパルスによって選択的(ホールバーニング的)に励起できる可能性が出てきた.現在,この速度分布がIRレーザーパルス励起によって変化するか実験的に調査中である. (4)これらの速度定数の分布・蛋白質のゆらぎが,蛋白質の生理活性の高さに必須か否かを示すことが,今後重要である.
|