Research Abstract |
本研究の目的は従来法よりも深部のがんを治療可能な光線力学療法(PDT)の確立である.PDTとは,がんに集積性を示す光感受性物質とレーザー光照射による光化学反応を利用した局所的治療法である.現在,PDTを繰り返し行うことによる深部がんの治療法が研究されている.PDTの治療効果はがん組織内の光のエネルギー分布,光感受性物質の濃度,および酸素濃度に依存する.しかし,PDTにおいて生体組織内での光のエネルギー分布は把握されていない.生体組織での光のエネルギー分布は光の伝搬に依存し,この光伝搬は生体組織の光学特性により理解できる.本研究では,がん組織の光学特性を算出し,繰り返し行うPDTにおける治療可能な深さについて定量的に把握することを目的として,がん組織の光学特性値を計測し,がん組織の光学特性値を基にPDTの治療深さを定量的に見積もることを検討した.試料としてがん細胞株皮下移植マウスがんモデルから得たがん組織を用いた.波長664nmでの腫瘍組織の吸収係数,および換算散乱係数はそれぞれ,0.18±0.12mm^<-1>,1.2±0.5mm^<-1>であった.組織内で光の入射強度のおよそ1/e(およそ37%)となる深さを表す光侵達深さを計算した結果,1.4±0.6mmであった.また,計測した腫瘍組織の光学特性値,およびがん組織内の光感受性物質の濃度,光感受性物質の量子効率と減衰係数の文献値からPDTにより発生する活性酸素量を推定し,PDTの治療深さを計算した.光感受性物質であるレザフィリン,および波長664nmの光を照射エネルギー密度100J/cm^2で照射した際のPDT可能な深さはおよそ3.7mmと考えられた. 実験値と理論式から得られた値を比較するために,がんに対して異なる照射エネルギーでレーザー照射してPDTを実施し,PDT後の組織壊死範囲を病理学的解析によって同定している. これらの知見は2012年の日本光線力学学会で発表を行っている.
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