Research Abstract |
本研究では,近未来の温暖化影響による北極域環境変化の予測を目的とし,太陽日射量増加によって引き起こされた温暖化が顕著であった時代(中世温暖期,完新世最温暖期,最終退氷期,最終間氷期最温暖期)の陸域,海域における環境変化を明らかとし,現在の北極環境変化との比較から,温暖化影響の有無やその可能性に関する知見の取得を行った. 北極圏の陸域の環境変化の復元にはアラスカ中央部で得た全長67cmの泥炭堆積物を用いた.同コアの最下部は約1000年前に相当するものの,表層は堆積速度が非常に早く深度33cmで約60年前であったことを確認した.そこで,表層33cmで40点の炭素安定同位体比測定を行い,試料採取地点近郊の気象観測データと比較を行った.その結果,泥炭堆積物の炭素安定同位体比は6月の気温と高い正の相関を持っていることから(r=0.808),ミズゴケ泥炭の炭素安定同位体比は6月の気温に依存して決定している可能性が高く,また,その関係は+1.19℃/%_0であることがわかった.Kaislahti Tillman et al. (2010)は,カナダで得られたミズゴケ泥炭の炭素同位体比と7月の気温の関係を+0.90℃/%_0と報告しており,本研究結果は彼らの値と近い値である.以上の結果を踏まえ,同コアの炭素安定同位体比連続データから過去1000年間の気温変動を復元したところ,西暦1120~H80年に約10年で5.3℃の気温低下が起こり,その時期が約60年間続いていたことが推定された.グリーンランド西部の湖沼堆積物の分析から,同様の時期に-4.7士0.7℃の気温低下があったことが報告されており(D'Andrea et al., 2011),少なくとも12世紀は北極域が寒冷な気候であった可能性が高いことが明らかとなった.
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