Research Abstract |
過去の我々の研究から, クォーク物質の相構造を解明するために, 熱力学的な観測量のヒストグラムを用いて相転移次数を区別するヒストグラム法が, クォーク密度がゼロの場合には, 有効であることが分かった。昨年度はこれらの方法を有限密度の場合に応用することを検討し, 本方法を, 特にクォーク質量が大きい領域において適応した。有限密度シミュレーションでは, 符号問題があることが知られているが, クォーク質量が大きい領域では比較的軽度であることが予想されており, さらに, この領域では数値計算が容易であるため, 方法のテストを行うことができると考え, 実行した。我々の方法の大きな特徴はこのヒストグラム法に, キュムラント展開と再重み付け法と呼ばれる方法を組み合わせた点である。これらの一連の芳法によって, クォーク質量が大きい領域での有限密度臨界面を特定できることを確認した。また, これらの研究のクロスチェックを行うために, その他の観測量によって検証を行い, 正当性を確認した。さらに, それに関する論文を英文紙Physical Review Dに投稿した。また, これらの一連の研究について, 国際会議SIGN 2014にて, 研究発表を行った。 有限密度格量子色力学シミュレーションは符号問題を抱え, その有用性がゼロ密度シミュレーションと比較し, 著しく制限されていると言える。符号問題は, 確率分布が複素数となるために, モンテカルロ法による数値積分が破綻することを意味している。この状況を踏まえて, 申請者は, モンテカルロ法とは異なる数値計算手法に関する研究について検討した。その一環として, ドイツのDESY Zeuthen研究所に拠点を移し, Dr. K. Jansen, Dr. K. Cichyらと議論し, 格子ゲージ理論のハミルトニアンによる定式化について勉強を行った。また, その研究に関連し, Max Planck Institute of Quantum Opticsに滞在し, 同ハミルトニアン形式による数値計算を行うために要するtensor network法の基本的な内容について学んだ。
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