Research Abstract |
本研究の目的は,前頭連合野の認知マップ(特に,ワーキングメモリとターゲット選択(選択的注意))の脳内再現を明らかにすることにある. この問題にアプローチするため,2頭のサルに,眼球運動性の遅延反応課題(oculomotor delayed-response, ODR),視覚探索課題(oculomotor visual search, OVS)と遅延視覚探索課題(oculomotor delayed visual search, ODVS)を訓練した.ODR課題は,サルが数秒の遅延期の前に呈示された視覚手がかり刺激の位置に向かって記憶誘導性サッケードをすることが要求されるため,視空間性のワーキングメモリを調べるのに適当であり,OVS課題では,1つのターゲット刺激とその周りに妨害刺激を含んだ刺激配列が呈示され,サルは妨害刺激の中からターゲットを選び出し,その方向に向かってサッケードすることが要求されるため,ターゲット選択が必要である.さらに,ODVSはこれらを組み合わせた課題で,手がかり刺激として,1つのターゲット刺激と妨害刺激が呈示されるので,手がかり刺激呈示期にはターゲット選択を,そしてそれに続く遅延期の間にはその情報を保持しなければならないので,ワーキングメモリを必要とした. サルがこれらの課題を遂行中に,前頭連合野の局所へ微量のムシモール(5μg/μl,1μl)を注入し,局所的な機能脱落を起こして,課題遂行への効果を調べた.その結果,ODR, ODVSの両方の課題が障害される部位に加えて,ODVS, OVSが障害される部位が存在すること,また,OVSが障害される部位はODVS, ODRが障害される部位と重複していることが明らかになった.これらの結果は,ターゲット選択に関与する領域とワーキングメモリに関与する領域が重複して再現されていること,さらに,ターゲット選択-ワーキングメモリに関与する領域が並列的に再現されていることを示唆する.今後はこの問題をさらにニューロンレベルで調べていく予定である.
|