Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
金融の自由化に伴い、専門的知識を有しない投資者が不測の損害を被ることが予想させる中で、投資者保護における刑事法のあり方を示そうとする本研究の目的にしたがって、次のような作業を行った。(1)先進国で、金融改革が行われているという意味で我が国と共通点をもつ英・米、また、仏の各国において投資者保護はどのように行われているのかについて検討を行った。特に刑事罰をどの程度投資者保護のために活用するかという態度については、国により相当の違いがあるが、比較的にわが国では、この分野における刑事罰の利用について謙抑的な傾向がみられた。(2)不当な投資取引が問題となった具体例に関して、広く情報を収集し、整理することに努めた。特に刑事法の適用がなされたものは、すでに広範囲における投資者等に大きな金銭的被害が生じた後に摘発されたものが多く、わが国の刑事実体法のあり方に課題が残るだけでなく、手続法的にも実際の困難が存在することが窺える。(3)刑事責任の本質について検討した。倫理的側面を強調する立場ばかりではないが、一方で限定的理解も十分になされているわけではない状況である。昨年度の知見ともあわせてみて、情報開示が投資取引への参加者の自己責任を問うための前提とはなるが、ごく少数の専門家にしか理解できないような複雑な金融商品も少なくなく、取引参加者の知識・経験等に大きなばらつきがあることを考慮すると、情報開示をすれば、取引参加者の自己責任を問うことが直ちに正当化されるわけではないであろう。大きな財産の減少のリスクが長期的に認められる投資取引だけに、勧誘や情報提供の態様を含めた規制の必要性の有無が個別的に検討されるべきであるとともに、刑事法以外の分野で被害の拡大前に問題事案を発見し、処理することを現実化しうる、より機能的なシステムの存在が必要であることが痛感される。