Research Abstract |
多変量正規分布における平均ベクトルのStein型の縮小推定量は一般にベイズ推定量とも解釈でき,MLEと縮小方向(事前分布の平均)との加重和で表現できる.このことは,真の平均をμ,縮小方向を0ベクトルとした場合,μ=0をμ≠0に対して検定するF検定が背後にあると換言できる.即ち加重(縮小率)がF統計量の関数となっており,F値が大きい場合にはMLEへの,小さい場合には縮小方向への加重がそれぞれ増す.縮小率は推定量ベクトルの全成分で一定であるが,これはF検定との関連を考えれば自然だと言える.縮小推定量は真の平均がゼロベクトル近いときはもちろん,外れた場合も含めて一様にMLEを改良するという点が非常に興味深く,その改良の大きさは一般には非心パラメータλ=‖μ‖^2にのみ依存し,一般にはλに関して単調減少でλ→∞で0になる. しかし実際のデータ解析の現場において分散分析の枠組で分布の一様性の検証をする場合,F検定のようなユニバーサルな対立仮説の検定による結果だけでは不十分で,多重比較法を用いた構造変化点の検出が必要とされる状況がしばしばある.μ=(μ_1,...,μ_p)′としたとき,多重比較が適用される場面では対立仮説として例えばμ_1【approximately equal】・・・μ_k【approximately equal】0,|μ_j|【greater than or equal】0,k<j【less than or equal】pを想定する.縮小推定に話を戻せば,通常は縮小率が全ての要素で一定であるので,例えば|μ_j|≫0,j>kという場合にはその改良は0に近くなってしまう.今X=(X_1,...,X_p)′,p【greater than or equal】6を正規変量としたときに,(X_1,...,X_k),k【greater than or equal】3のみを用いて構成した(μ_1,...,μ_k)′の従来型の縮小推定量をδ^+_kとし,また同様に(X_<k+1>,...,X_p)を用いて構成した(μ_<k+1>,...,μ_p)′の推定量をδ^-_kとして,δ^*=(δ^+_k,δ^-_<p-k>)′でμを推定することを考える.δ^*はkを既知とすれば想定する対立仮説の状況においてもある程度の改良が期待できる.逆に帰無仮説が採択される状況では通常の推定量δ_pほどは改良が期待できないであろう.しかしここでもし標本を得たときに,(δ^+_k,δ^-_<p-k>)′とδ_pのどちらを採用するか適応的に選べるタイプの打ち切り型推定量が求められれば,分散分析のような状況においては有用である可能性がある.また二つの加重和からなり,その加重が標本から縮小率の大きさに応じて決定できるような推定量も同様である. 以上を踏まえ本研究ではX〜N(μ,I_p),kも既知という最も簡単な場合について上記のようなミニマクス推定量を導出することに成功した.また,順序統計量に基づき,kが未知という場合にも対応が可能なより指向性の高いミニマクス推定量の導出にも成功した.
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