Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究の目的は、「スピン・トリプレット超伝導体であるSr_<2-x>Ca_xRuO_4における磁気的性質に関して中性子散乱実験を通して調べ、その超伝導状態の理解を深める」ことである。Sr_2RuO_4の超伝導では、強磁性的スピン揺らぎがクーパー対を形成させるものと期待され、事実、核磁気共鳴によりその証拠が示唆されている。しかしながら、最近の中性子散乱実験によれば、Sr_2RuO_4では顕著な強磁性揺らぎは観測されないが、反強磁性的な不整合な揺らぎが観測されている。そのため、その反張磁性揺らぎが、Sr_2RuO_4のクーパー対形成機構に対して関与している可能性があるものとして、実験、理論の両面から注目されている。特に、その反強磁性揺らぎに異方性がある場合には、強磁性揺らぎがなくともP波超伝導が安定化すると考えられている。そこで、我々は、その反強磁性揺らぎに関する知見を得るために、詳細に中性子散乱実験を行った。具体的に平成14年度に行った研究は以下である。1)Sr_2RuO_4の単結晶試料の育成を行い、良質な単結晶試料を準備し、電気抵抗測定、X線回折等により試料の評価を行った。2)育成した単結晶試料を用いて、中性子非弾性散乱実験を行い、反強磁性スピン波の揺らぎに関して、温度、エネルギー依存性を詳細に調べた。特に、その異方性に関する実験を行った。以上の実験により明らかとなった結果を以下にまとめる。1)反強磁性揺らぎの温度依存性を観測した結果、その揺らぎは超伝導転移温度よりもかなり高温から存在し、超伝導転移に伴って消失するかのように振舞うことが明らかとなった。2)反強磁性揺らぎのエネルギー、温度依存性を元にして、スケーリング則の検討を行った。その結果、動的構造因子が、温度の冪とエネルギーの比に対してスケーリングされることが明らかとなった。3)反強磁性スピン揺らぎの異方性を測定した結果、RuO_2面内と面間とで反強磁性揺らぎに異方性が存在することが明らかとなった。