Research Abstract |
顎変形症患者に対しては,機能ならびに形態の改善を目的とした顎矯正手術が積極的に行なわれるようになり,特に最近では,手術前・後の定量的評価も検討されるようになった.しかし,手術後に予想されるセグメントの後戻りとその咬合に及ぼす具体的な影響に関しては,いまだ明らかにされていないのが現状である. 顎矯正治療においては,手術前に歯列模型を用いた,いわゆるモデルサージェリーに基づいて最も望ましい顎位を設定した後に,手術中にその咬合関係の再現が可能なスプリントを用意して,それを用いた顎間固定を行うことが,一般的な手法とされている.しかし,この種の手術では,常にセグメントの後戻りの可能性が存在する.この手術後のセグメントの後戻りの要因としては,手術方法,顎間固定の期間,セグメントの三次元的な移動量,手術後に与える咬合関係,顎骨に付着する筋肉の作用などが考えられている.この中で,手術時に付与される新しい顎位での上下顎歯列の咬合接触関係が,セグメントの位置的安定性に大きな影響を及ぼす可能性が,臨床経験的に指摘されてきた. そこで本研究では,下顎セグメントと手術前に設定した顎位との関係を具体的に分析するために,臨床例における手術前・後の咬合関係を測定し、両者の変位量を対比した統計的検討を行った.また,手術前後の咬合力についても測定し比較検討した. その結果,判別分析において,接触面積と接触点数の増加,および最後方歯の接触の付与によって,下顎セグメントの顎間固定解除後早期に発現する変位は,可及的に減少させることが可能と推測された.また,重回帰分析において,下顎セグメントの顎間固定解除後早期における変位には,セグメントの垂直的移動量,咬合接触面積,最後方歯の接触が関与していることが確認された.咬合力については,顎間固定を解除後1週以内では,術前と比較していずれも低下が見られ,その後7週までにほぼ術前レベルまで回復した. 以上のことから,手術後の咬合位の設定は,モデルサージェリーでの咬合接触面積と接触点数とを可及的に多く付与して咬合を安定させることで,顎間固定解除後早期に発現する下顎セグメントの変位を最小限することが可能と考えられる.
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