Research Abstract |
食道癌手術患者は,侵襲が大きく,退院後も日常生活への影響が大きいため,十分説明をうけ納得した上での患者の意思決定は非常に重要である。その心理状態をふまえたインフォームドコンセントのありかた,意思決定への支援方法を明らかにするために,今回は食道癌手術患者の術前から術後1年にわたる意志決定のプロセスについて明らかにすることを目的とした。対象者は、告知をうけている食道癌患者6名について術前、術後退院前、退院後1ヶ月、退院後1年の各時期に、面接調査を適時行いながら.対象の意思決定のプロセス,心理状態の内容を質的に分析し、4つの段階に分類した。 1.食道癌手術への漠然としたイメージ;治療や疾病の説明は,外来時に行われるが,詳細な手術の説明は、手術前日にされることが多い。患者は入院時より他の手術より大きいという認識はあるが、「食道をとるだけ」と考える対象者も多く、手術前日の説明に思ったよりも大変とイメージする。しかし詳細な説明はあっても身体内部の変化であるため、術後経過は思い描くのが難しく漠然と「大変」と感じていた。 2.手術に対する葛藤;医療情報の増加などから,放射線治療では無理なのか,内心葛藤する患者も少なくない。選択の余地がないものとして受け入れる場合も多いが,不利益に対するジレンマも高く,他の治療を調べる患者もいたが、自分の中で対処し、その思いを医師に伝えていない場合もあった。 3.情報制限の中での意思決定;大きすぎる脅威に「手術の説明は聞くが,術後の状態は混乱するので聞きたくない。」と選択的に情報を抑制しており、個人差はあるものの自ら制限した情報の中で治療を決定していた。これは近年の入院期間の短縮化もあり十分に疾病や手術を受け止める時間がないことも推察された。 4.術後のギャップと再評価;多かれ少なかれ、患者は術前にイメージしていた治療とのギャップを感じていた。術後にあらためて手術による喪失を実感し,その実感は退院後にも幾度か経験していた。術後障害が大きい場合,葛藤する場面を認めたが,このときの医療者の説明や対応の仕方によって心理的トラブルに発展する場合とそうでない場合があった.術後経過のよい患者は結果をもとに手術選択をよかったとして納得し、術後経過が悪い者も命とひきかえであると考え納得させようと努力していた.
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