Research Abstract |
近年の核融合研究において、水素イオンがプラズマ中心部から容器壁に到達するまでに壁付近で再結合して消滅する非接触プラズマ現象が見出され、容器壁の熱負荷低減の要求から注目されている。この現象には、よく知られた電子とプロトンの再結合に加え、分子の関与する再結合過程(MAR)が重要であると考えられている。我々はプラズマ中で生じているMARを定量的に評価するため、下記の一連の過程を組み込んだ中性粒子輸送モンテカルロシミュレーションコードを構築した。 H_2(v)+H^+->H_2^+(v')+H(1) (1) H_2^+(v')+e->H_2^2(v")+e (2) H_2^+(v")+e->H(1)+H(p) (3) H(p)->H(q)->H(1) (4) 我々はまず、水素原子・分子衝突輻射モデルを構築し、MARの実効的速度係数を計算した。計算では水素分子の電子基底状態の各振動状態を区別した。このモデルにより水素分子の初期振動状態によるMARの実効的速度係数の変化を調べると、初期振動状態v=4ではv=0の場合より1桁以上大きな値をとることがわかった。また、各振動状態のポピュレーションの計算において、各振動状態の分子を独立粒子として扱った場合と、準定常近似を適用した場合の2種類の計算をしたところ、ポピュレーションの決定には、準定常近似を用いることができないことがわかった。このような検討から、モンテカルロシミュレーションコードにおいて、各振動状態分子を独立粒子として扱った。 核融合ダイバータプラズマを想定し、一次元のモンテカルロシミュレーションにより、振動状態v=0およびv=4の水素分子が壁から300℃に相当する温度で一様なプラズマ(T_e=2eV,n_e=10^<14>cm^<-3>)に放出された場合について、プラズマ中各場所での単位体積・単位時間当たりのMARの反応量の計算を行った。同量の水素分子が放出された場合、壁付近の反応量はv=4のほうがv=0より2桁近く大きくなった。これは、上記の反応(1)の速度係数がv=4のほうがv=0よりもおよそ2桁大きいことに由来する。同様の理由で、水素分子密度がv=4のほうがv=0より急速に壁から減少するため、MARの反応量もv=4のほうが壁から急速に減少した。また、MARが電子プロトンの再結合より効く領域が存在するのは、v=0の場合は壁付近での水素分子密度が10^<12>cm^<-3>以上、v=4の場合は10^<11>cm^<-3>以上ある場合に限られることがわかった。 信州大工学部の誘導型高周波水素放電プラズマ(13.56MHz,水素ガス圧0.015Torr,T_e=3eV,n_e=3x10^<11>cm^<-3>,直径5cm円柱状プラズマ)に、プラズマの周囲の中性水素の振動状態をv=0と仮定して、上記のモンテカルロシミュレーションコード適用したところ、プラズマ中の水素分子振動励起状態からのMARはv=0からに比べ無視できるという結果が得られた。
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