哺乳動物の卵子や胚の耐凍性を決定している遺伝子の単離のために、(1)水/耐凍剤チャンネル発現によるマウス卵子の耐凍性向上と(2)マウス胚で発現している未知の水/耐凍剤チャンネルの同定を試み、以下の結果を得た。 (1)については、水や耐凍剤の透過性が低く、耐凍性の低いマウス卵子をモデルとして用いた。GV期卵子にラット腎臓cDNAから単離した水/耐凍剤チャンネルの一つであるアクアポリン3(以下AQP3)のcRNAを注入し、12時間培養してMII期まで成熟させた。成熟した卵子はいずれも水およびグリセロール透過性が著しく上昇し、AQP3が人為的に発現し、機能を発現したことが確認された。通常、マウスの卵子はグリセロール透過性が非常に低いため、ガラス化超急速凍結保存がまったく不可能である。そこで、水およびグリセロールの透過性が上昇したAQP3 cRNA注入卵子のガラス化超急速凍結を試みたところ、約半数の卵子が融解後も生存していた。さらに、凍結融解後の卵子を体外受精したところ、受精卵が得られ、一部は胚盤胞の段階まで発育した。 この結果から、水/耐凍剤チャンネル遺伝子は卵子や胚の耐凍生を決定している遺伝子の一つであることが強く示唆された。 (2)については、マウスの初期胎盤および初期胎膜からcDNAライブラリーを作製し、そのcRNAをアフリカツメガエル卵子に注入して水透過性が上昇するクローンを得ようとした。しかしながら、いずれからも良質のcDNAライブラリーを作製できなかった。一部のcDNAクローンからcRNAを作製して注入したが、水透過性を向上させるクローンは見つからなかった。 本研究により、水/耐凍剤チャンネルが耐凍性を決定している遺伝子であることが強く示唆された。今後、既知の水/耐凍剤チャンネルの発現の有無や未知の水/耐凍剤チャンネルの存在の有無について調べる必要がある。
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