Research Abstract |
障害者に対する偏見は未だ社会に存在するが, 共生社会を掲げる我が国では, 障害者の教育, 福祉, 労働等の差別に対して, 平等を目指した介入が行われている(内閣府, 2011)。しかしながら, 実際には, これらの平等的介入がうまくいかないこともあり(例えば, Henessy, 2011 ; 河内, 2006 ; 京極, 2009), 人々が平等に動機づけられるような, 効果的な介入方法について考える必要がある。本研究は, 平等主義的動機の背景に存在すると考えられる, 平等の利益に着目し, どのような平等利益の認識が平等主義的動機を高めるのかを明らかにすることを試みた。 本年度は, 平等の利益について探索的に調べることを目的とした。具体的には, 大学生・大学院生を対象に, 平等の実現によってどのような利益が得られるか, (1)自己, (2)マイノリティ, (3)社会全体の3つの対象に分けて自由記述を求める調査を行った。さらに, 自由記述の後, 回答者の平等主義的動機の強さを測り, それぞれの平等利益の認識によって, 平等主義的動機が高まるかを調べた。 平等の利益に関する自由記述を3名によるKJ法で分類した結果, どの対象に対しても, 総じて感情のような心理的側面(ソフト)への言及と生活や経済のような物理的側面(ハード)に関する言及が得られた。また, それぞれの対象における平等利益を認識することによって, 平等主義的動機に影響が見られるか否かを調べた結果, マイノリティにもたらす平等利益について言及した回答者が最も平等主義的動機が高いことがわかった。このことは, マジョリティの人々にマイノリティの視点に立つことを促すと, マイノリティへの偏見が低減するという結果(e.g., Batson et al., 1997 ; Galinsky & Moskowitz, 2000)と一致する。注目すべきは, 自己にもたらす平等利益を認識させたとしても, 平等主義的動機が向上しないという点である。平等政策はマジョリティにとって利点がないため支持されないという報告もあるが(Lowery et al., 2006), 逆にマジョリティの利点だけを提示したとしても支持されない可能性が本結果から示唆される。
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