Research Abstract |
矢状面における運動時間を変化させた到達運動の詳細な定量的解析より,健常者は,運動時問が短くなることにより失われる滑らかさを,手先の通過する高さを低くすることで補償している可能性があることが,滑らかさの運動規範に基づいて示されている(Wada, Aiba, Fukuzawa 2001).しかしながら,健常者と同様の運動傾向を示さない失書患者の傾向,つまり,運動時間が長いときに手先高さがほぼ一定になることなどは,上述の説明では十分ではなかった.我々は,これらを説明するために運動指令依存ノイズに基づいた終点誤差分散最小規範を検討した.第1に,運動指令依存ノイズの大きさと,手先通過高さを変化させた数値実験を行い,手先の通過する高さが同じ場合には,依存ノイズが大きいと終端誤差が大きく,依存ノイズの大きさが同程度のときは,手先の通過高さが高いほど終端誤差が小さくなることを確認した.次に,健常者に対する被験者実験において,模擬的に被験者の運動指令依存ノイズを増加させる実験環境によって,ノイズが大きい場合の運動実験を行い,手先の通過する高さが,ノイズを加えたら高くなり,終端誤差は手先の通過する高さが高くなるほど小さくなることを確認した.従って,患者のノイズが健常者よりも大きいと仮定すれば,運動時間が短いとき,患者の手先高さが低くならなかったのは,ノイズの大きさに起因する終端誤差の増加を,手先の通過する高さを高くすることで補償する患者の方策であった可能性が示唆される.また,この結果は,ヒトの運動計画には,滑らかさに関する規範とともに誤差分散最小化の規範があることを示唆しているものと考えられる.
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