Research Abstract |
本研究では,小学校5・6年生の理科領域,特に植物単元を対象に,単元進行に伴う学習者の理解の様相の変化を縦断的に追跡調査した。小学校5年理科には,(1)「植物の発芽と生長」,(2)「植物の花と実」という2単元があり,タネの発芽条件や受粉のしくみを学習することになっている。また,小学校6年理科には,(3)「植物のからだと日光」という単元があり,光合成について学ぶことになっている。前研究では,これらの単元進行毎に追跡調査を行い,特に単元(2)の課題において,1)正答者率は事前調査時には低く,当該授業直後には高くなり,遅延調査時には低く落ち込み,6年次の授業で再び高くなるというN字型の推移を示すこと,2)その推移は,先行単元学習完成者と非完成者では異なり,後者は遅延時の落ち込みが大きく授業による回復も悪いこと,を見いだした。特に2)の結果は学習者間の学力格差の拡大を意味した。そこで,本研究1では,学力格差の是正を目的として,6年生単元(3)で5年次の単元(1),(2)の内容を総合的に意味づけ,関連性を高める教授プランを作成・実施し,前研究とは異なる児童を対象に,プランの効果に関する調査を行った。この結果,課題の半数以下しか正答し得なかった学習者が前研究より減少し(30%→14%),半数以上正答した学習者が増加した(70%→87%)。このことは,教授プランによる授業の有効性を示すものであり,単元進行に伴う理解の発展を確実にしたといえる。この結果を受けて,研究2では,小学校5年生理科の単元(2)において先行単元(1)の内容との相互関連づけと意味づけを可能にする教授プランを作成・実施し,教授プランによる授業の効果を検討した。これまでの結果との比較では,単元(2)の授業の前後では劇的な変化はないが,今回が一番高い正答率を得た。今回の授業は,花概念の内包的理解に効果があったといえる。また,5年進級時の花の役割に関する回答において,理解を示した者とそうでない者が見られ,この両者ではその後の単元における一部の課題の解決状況の変化に違いがあった。また関連づけ授業後も違いが存在し続けた。よって,概念の一般的理解を促す援助活動の必要性が示唆された。以上から,1)先行単元学習の成否が後続単元の理解に格差を産むケースが存在する,2)その格差の拡大は,概念相互の関連づけや意味づけを可能にする援助によって是正可能である,3)さらに一般的理解を促進する援助法の開発が必要である,といえる。
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