Research Abstract |
本研究の目的は,従来の理科授業における数学の位置づけと課題内容を見直し,生徒の科学的,数学的思考力を育むための授業カリキュラムを開発することにある。具体的に,実験や観察を通して科学的法則を帰納するのではなく,理論的モデルによって科学的法則(数学的内容)を演繹し,科学的法則や数学を応用する現実的な課題として実験を位置づけること,また,コンピュータを介して,個人の課題解決プロセスをクラス全体で共有することが,科学的思考や数学的思考の育成に効果があると考え,そのような授業と従来の理科授業と比較して,生徒の科学的,数学的思考力の育成に関して,効果的な授業カリキュラムを検討した。 中学校三年生の「運動とエネルギー」の授業を対象とした。公立中学校3年4クラスを2クラスずつ実験群,または統制群に割り当て,それぞれの授業カリキュラムに沿って,授業を行った。実験授業では,ある物を使って加速装置を作り,その装置によって宇宙に出られる速度(12km/秒)に達する時間を求めるという課題を行った。授業後,実験群,統制群ともに,評価テストおよび自己評価アンケートを実施した。 評価テストの得点を分析した結果,全体の合計点,関数概念の活用が必要な問題の得点に関して,実験群の得点が統制群の得点よりも有意に高かった。このことから,実験群の生徒は,成績に関わりなく,統制群の生徒よりも,「速さの変わる運動」についてよりよく理解するとともに,関数概念に関してもより有効に活用できるようになったことが示された。また,自己評価アンケートを分析した結果,「授業に対する興味・関心」,「授業に対する意欲」,「グループでの協力」に関して,実験群の評定値が統制群のそれよりも有意に高かった。
|