Research Abstract |
HIV感染症治療としてHIVに感染したリンパ球もしくはウィルス粒子を放射線等で傷害させる方法が提案されている。リンパ球は生体内で最も放射線感受性が高い細胞のひとつであるため,血液中のリンパ球のみを傷害する方法は体外的照射法が応用できる。本研究では猫リンパ球由来の株化細胞を用い,そのX線照射による効果的な傷害作用とその条件を明らかにするための基礎的検討を試みた。ほぼ一定数に調整した培養液中猫リンパ球由来株化細胞(FeT-J, FL-4,Kumi-1,このうちFL-4はFIV持続感染株)に対し,X線(0,2,5,10,15,20G)を照射した。これらの細胞はその後培養を継続し,経時的な生細胞数,チミジン要求量,およびFL-4については培養液中のFIV抗原量もモニターした。 FL-4細胞からのFIV抗原量は培養液中の細胞数にのみ依存し,X線照射条件には依存しなかった。このことより,今回のX線照射条件では,FIVには直接影響を与えないが、感染リンパ球に傷害を与えることでFIVを減少させることが可能と考えられた。X線照射後,それぞれのリンパ球は照射線量に応じた増殖特性を示し,それらはチミジン要求特性に対応した。つまり,チミジン要求性の高い細胞はその後増殖し,チミジン要求性が減少した細胞はその後生細胞数が減少した。いずれのリンパ球も,最大20Gyの照射でも12日間のモニタリング期間中には完全に死滅しなかった。この照射後の生細胞の増殖プロフィールとチミジン要求性から,放射線感受性はFeT-J株,FL-4株,Kumi-1株の順に高くなることが示された。FeT-J株は20Gyの照射でも明らかな増殖死を認めず,線量に応じた増殖遅延を示したのち,0Gy条件と同様の細胞数まで増殖した。これに対し,FL-4には2Gyで明らかな増殖死が認められた。Kumi-1株は今回用いた株の中で最も長い増殖遅延を示し,特にチミジン要求量が10-20Gyの照射で顕著に低下した。以上の結果,唯一IL-2要求株であり猫のリンパ球に最も性質が近いと考えられるKumi-1株の結果より,猫リンパ球に傷害を与えるには最低10Gyの照射が必要であると推測された。 上記の成果は,当初の計画通り実施され,日本獣医学会(3/30)で発表予定であり,現在投稿準備中である。
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