Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
マグネシウムはNMDA受容体に関連したカルシウムイオンの細胞内流入を阻害し、神経保護作用を持つ可能性がある。しかし全身投与では血液脳関門を通過しにくく、また血圧低下などの副作用があるため、投与方法としてはくも膜下投与が望ましい。そこで、平成14年度の研究で硫酸マグネシウム(MgSO_4)のくも膜下投与の安全性について研究を行った。その結果、MgSO_42mg/kg以上には神経毒性があることが明らかとなった。本年度の研究では、MgSO_40.3mg/kgまたは1mg/kgの脊髄くも膜下投与による脊髄保護効果を家兎一過性脊髄虚血モデルを用いて検討した。【方法】MgSO_40.3mg/kg群、1mg/kg群、生理食塩水群(各群6羽)に分けた。あらかじめ腰部脊髄くも膜下に留置したカテーテルよりMgS0_4または生理食塩水を総投与量が0.3mlになるように調整し、脊髄虚血開始20分前に投与した。脊髄虚血は15分間の腹部大動脈遮断により作成した。再灌流後4日間後肢運動機能(4:正常、3:跳躍はできる、2:正常に座れない、1:わずかに動く、0:完全麻痺)を評価し、その後に脊髄を灌流固定し、腰部腹側脊髄の正常神経細胞数を計測した。【結果】再灌流4日後の後肢運動機能はMgSO_40.3mg/kg群で3:1羽、2:1羽、1:1羽、0:3羽、1mg/kg群では0:6羽、コントロール群では4:1羽、3:1羽、2:2羽、0:2羽で、マグネシウムの保護効果は認められなかった。1mg/kgではむしろ予後を悪くする傾向があった。腰部腹側脊髄の正常神経細胞数にも3群間で有意差はなかった。【考察・まとめ】イヌを用いた研究では、MgSO_4(3mg/kg)の脊髄くも膜下投与で強い脊髄保護効果が報告されているが、今回の研究では保護効果は全く認められなかった。以前の報告と結果が異なる理由は明らかではないが、高用量のMgのくも膜下投与には神経毒性が認められるので、虚血性脊随障害から脊髄を保護するためのMgSO_4のくも膜下投与に関しでは今後さらなる検討が必要である。AMPA受容体拮抗薬のくも膜下投与の安全性と脊髄保護効果についても検討を進める予定である。