Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
昨年度に続き、当時の北イタリアに流布したさまざまな図像資料や言説(特に幻視や終末論的預言に関連)の収集・解読を進め、ロレンツォ・ロットの作例と比較対照した。そこから、改革思想やカトリック内部の不安だけでなく戦争や自然災害にも疲弊していた当時の民衆の心性と、それを操作するイメージや言説の網目の中で、ロットの作品の機能やメッセージ性を問うことができた。トレスコーレのスアルディ家礼拝堂装飾は、家族を教化し、日々の瞑想に役立てられただけでなく、それを目にした多様な階層に異なるメッセージを発しうる多義性を孕んでいた。また主題の一つ、聖女ブリジェットの預言が、当時の終末論的状況の中で特別の意味をもって解釈されたことも示唆された。さらに、家庭生活で消費されるイメージが、見るものの内面に結ばれる「心のイメージ」にも作用して「心の瞑想」という特殊な信仰形態に貢献したことに着目し、内面のイメージとの関わりにも問題の射程を広げた。そこから、そうした瞑想を助けた「記憶術」との関わりという新たな問題も浮上してきた。これについては、ロットとも関連深いヴァラッロのサクロ・モンテをめぐる厳修会士B・カイーミの構想における記憶術の役割についての論文を大学紀要次号に掲載予定。これらの研究成果は、今年度の美学会で発表する。さらに、ルネサンス期の上流階級の家庭を装飾した写実肖像に目を向け、その起源に「実物型取」という中世の工房の伝統が残存していることに注目した。写実芸術の発展として単線的に捉えられがちなルネサンス芸術における「逆行」を考察することで、「もう一つの系譜」を考察した。実物型取との関連から、デスマスク、古代の葬礼のイマーゴ、中世以降のイギリスやフランス国王の似像による二重葬儀、さらに奉納像(ex-voto)との関連に目を向け、歴史人類学的視点から写実肖像を解釈し、本学比較芸術学研究センターで発表した。
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京都造形芸術大学紀要『GENESIS』 9(未定)