Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
放射線性腸炎は、癌に対する放射線照射によって、腸管にびらん潰瘍が生じる難治性医原性疾患である。本研究では、ラットX線誘発放射線性腸炎モデルにおいて、アデノウイルスベクターを用いてアポトーシス抑制遺伝子Bcl-XLを導入し、放射線性腸炎の発症予防効果を検討した。ベクターの投与経路別遺伝子発現性の検討では、注腸投与法では大腸粘膜上皮特異的に、腸間膜動脈投与法では、腸管壁血管内皮細胞のみならず結腸壁全層ならびに肝全域にも遺伝子発現が認められた。腸間膜動脈投与法にて血管内皮・粘膜上皮両者に遺伝子発現を認めたため、注腸・腸間膜動脈投与併用投与は行わなかった。注腸投与法におけるX線照射後の経時的な観察では、Bcl-XL発現ベクター投与群は、lacZ発現ベクター投与群、PBS投与群に比較して、びらん・潰瘍形成は軽症であり、大腸粘膜上皮のX線誘発アポトーシスを有意に抑制していた。このアポトーシス抑制効果は、照射後24間、48時間、7日目みならず、1ヶ月目、3ヶ月目においても認められた。腸間膜動脈投与法では、Bcl-XL発現ベクター投与群で、大腸粘膜上皮のアポトーシスに加えて腸管壁血管内皮細胞のアポトーシスも抑制し、粘膜下層の血管構築も保たれていたが、肝臓での遺伝子発現が、臨床的に問題となる可能性が示された。血管内皮特異的な遺伝子導入が困難であったため、放射線性腸炎発症における腸管壁血管内皮細胞障害の意義を直接的に証明することはできなかったが、血管内皮細胞が、粘膜の障害・再生過程に関与している可能性が示めされた。以上から、アデノウイルスベクターを用いたBcl-XL遺伝子導入による放射線性腸炎発症の予防効果が示された。また現段階での至適投与経路は、注腸投与法であった。