Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
慢性的なドナー不足による臓器移植医療の問題を解決するためブタをドナーソースとする異種移植研究が進められている。我々はブタ細胞に対する拒絶反応の中で液性拒絶反応に続く細胞性免疫反応のなかで、NK細胞による拒絶反応を阻止することを目標にしてきた。1996年からヒト繊毛上皮細胞に発現するHLA-GまたはHLA-E遺伝子をブタ細胞上に発現させヒトNK細胞からの細胞障害を抑制することを証明してきた。またこれに伴いTh1サイトカインの分泌抑制が認められた。これらの現象を生体内で証明するためにヒト化免疫不全マウスを用いた実験系を確立し、現在マウス内サイトカインの変化または遺伝子導入ブタ細胞の病理学的状態を検討している。また従来のブタ細胞への遺伝子発現は一過性にリポトランスフェクションにより行われてきたが、今回我々は人工染色体技術を用いたブタ細胞への遺伝子導入を試み、まず初段階としてHLA-G遺伝子を導入したキメラマウスの作製に着手している。今後この遺伝子導入方法が確立すればキメラブタの作製も可能であり、今後の臓器移植医療に大きな貢献となることが予測される。まずヒトHLAを導入したHAC(HLA-HAC)の作製、続いてこれをマウス胚性幹細胞への移入し、HLA-HAC保有マウス胚性幹細胞のマウス胚への注入によるキメラマウスの作製を試みている。現時点ではHLA-G及びHLA-E遺伝子のクローニング後、HAC(ヒト人工染色体)への導入を行った。CHO細胞へのHLA-HACの導入後、HLA-HAC-CHO細胞とHT-1080(ヒト細胞)の微少核融合にて人工染色体のヒト細胞への移行を可能にした。HLA-G、HLA-EのHT-1080細胞への発現はwestern blottingにて確認され,人工染色体に導入されたHLA遺伝子が他細胞へ発現されることがわかった。しかしながらヒト以外の細胞では人工染色体やHLAの存在は認められるがタンパク発現には至らなかった。これは人工染色体であるが故のタンパク発現の制御またはプロモーターの変更が必要である可能性があり今後の課題となっている。